前立腺がん関連ーその2ー
(Medical Tribuneなどから)
(2005年1月~12月)
前立腺癌の検出に新たな方法 遺伝子再配列の同定可能に[2005年12月15日 (VOL.38 NO.50) ]
独自の検出方法を利用した新研究により,前立腺癌の発生と進行に関与する遺伝子再配列の同定が可能になった。ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)病理学のArul Chinnaiyan博士らは,ユーイング肉腫(比較的まれな骨腫瘍)における発癌遺伝子再配列に関連付けられていた 2 つの遺伝子ETV1とERGが,前立腺癌における重要な発癌遺伝子であるとScience(2005; 310: 644-648)に発表した。詳細な分析により,これら遺伝子再配列がどのような機序で発癌性の原因になるのかが示されている。
上皮細胞由来癌で初めて説明
今回の研究は,体腔の内層である上皮細胞に由来する癌において,遺伝子の非無作為再発性の遺伝子再配列が発生することを初めて証明した。これまで同再配列は,白血病,リンパ腫,軟組織肉腫にのみ発生すると考えられていた。遺伝子断片がDNAのある部分から別の部分に移動する遺伝子再配列は,転座と呼ばれており,おそらく遺伝子発現(遺伝子のスイッチがオンあるいはオフ)に影響する。遺伝子転座は遺伝子発現に劇的な影響を与える。転座の有名な例としては,BCR遺伝子とABL遺伝子の融合がある。BCR-ABL融合遺伝子は,慢性骨髄性白血病の発症原因となる。これまで前立腺癌などの上皮癌では,このような遺伝子変異は知られていなかった。この研究のプログラム責任者でテキサ� �大学保健科学センター(テキサス州サンアントニオ)のJacob Kagan博士は「前立腺癌における遺伝子変異の研究は難しい。そのため,再発性の非無作為遺伝子再配列を明確に同定することができなかった。今回の知見は,同様の機序が乳癌,肺癌,結腸癌など他の上皮癌にも関与している可能性を示唆する重要なものである」と述べている。
逸脱した遺伝子を探す
Chinnaiyan博士らは,マイクロアレイのデータセットを分析して,前立腺癌細胞の変異遺伝子を探索した。マイクロアレイ分析は,細胞内の全遺伝子発現を同時に測定する方法である。大量のマイクロアレイデータを調べるために,同博士らは癌に関連するおもな過剰発現遺伝子を選別する「癌はずれ値特性分析(COPA)」と呼ばれる革新的な段階的方法を開発した。COPAは大量のマイクロアレイデータを取り込み,はずれ値つ� ��り前立腺癌組織中で発現する通常の遺伝子プロフィールに比べてかなり逸脱した遺伝子を探す。COPAデータを用いて,研究者は 2 つの融合遺伝子,TMPRSS2-ERGとTMPRSS2-ETV1を同定した。これら遺伝子は,前立腺と特異的に関連するTMPRSS2遺伝子がそれぞれERGあるいはETV1遺伝子に融合することにより形成された。
他の癌研究にも有望
NCIの癌バイオマーカー研究プログラムの責任者で,早期検出研究ネットワーク(EDRN)の所長でもあるSudhir Srivastava博士は「前立腺癌中に融合遺伝子が発見されたことは,癌の検査と早期検出,分子標的の開発に新しい未研究分野を創出した。この種の研究は,EDRNの革新的かつ先見性のある研究の実例である」と述べている。過去の症例221例(腫瘍167例と良性前立腺組織54例の標本)を分析したCOPAから,ERGまたはETV1が腫瘍標本167例中95例(57%)で過剰発現していたが,良性前立腺組織ではいずれも過剰発現していなかった。ミシガン大学の研究室で前立腺癌組織22例の標本を調査したところ,20例(91%)がERGあるいはETV1の過剰発現とTMPRSS2遺伝子との融合を示しており,ERGあるいはETV1がTMPRSS2遺伝子と並ぶことにより,これら遺伝子配列が過剰発現することが示唆された。筆頭研究者でEDRNの主任研究員でもあるChinnaiyan博士は「今回の発見は前立腺 癌の疾患過程の理解と,その過程を停止させる治療法の開発に重要な関係があるかもしれない」と述べている。これらの発見は,上皮腫瘍における非無作為再発性遺伝子再配列が他の癌研究の発展にもつながる可能性を初めて証明した。しかし,実際の検出技術や治療法を開発する前に,より多くの組織についてこれらの結果を確認しなければならない。
前立腺癌密封小線源療法で治癒率向上 [2005年12月15日 (VOL.38 NO.50) ]
Ray Harvey氏(42歳)は,前立腺癌の家族歴があったとはいえ,悪性前立腺癌と診断されたときは,やはりショックだった。定期健康診断で前立腺癌スクリーニングを受け,癌であることがわかった同氏は「父も祖父も前立腺癌だったので覚悟はしていたが,60歳くらいで発症するものだと思っていた」と語っている。幸い,現在では治療の進歩と高感度の画像化技術のお陰で,同氏のような癌でも90%が治癒する。
照射線量を抑制できる
Harvey氏の治療を担当したミシガン大学総合癌センターとプロビデンス病院Assarian癌センター(ともにアナーバー)放射線腫瘍学のPatrick W. McLaughlin臨床教授は「現在では優れた治療法があり,早期発見・早期治療により90%の患者が治癒する。次の目標は90%の患者を副作用や長期合併症なしに治療することだ」と述べている。Harvey氏は集中治療の 1 つである密封小線源療法を選択した。同療法では前立腺内に高線量の放射線を放出する極小ビーズを埋め込み,癌細胞を死滅させる。McLaughlin教授は「前立腺内にこのビーズを埋め込めば,癌細胞には高線量を照射でき,前立腺の周囲組織には,ほとんど放射線が及ぶことなく治療できる。そのため,癌を治療し,かつ照射線量を抑えるという目標を同時に達成できる」としている。ビーズの埋め込みは静注用の針と同等の細針で,超音波とX線ガイド下で埋め込み位置を特定しながら行う。埋め込み後,MRIやCTスキャンにより,前立腺と近傍の正常組織への照射線量をミリ単位で確認できる。
前立腺底の視覚化が鍵
McLaughlin教授は「ここ数年で治療後のQOLを大きく改善できるようになった背景には,画像技術の進歩がある。� ��なる組織を差別化して,照射線量を制限できるようになった。われわれの調査と客観解析が示すように,(放射線照射による)随伴症状と長期の機能変化との間には明白な相関が認められる」と述べている。Harvey氏の治療には,McLaughlin教授らが開発した最新画像技術により,放射線療法をより良好に施行できる方法が用いられた。前立腺底をより鮮明に同定することで,勃起機能をつかさどる血管への放射線照射を回避できる。同教授は,この血管束温存放射線療法を,前立腺全摘術において神経束温存法が進歩し,術後の性機能を維持できるようになったことになぞらえている。
正確な埋め込みでQOL改善
前立腺癌と診断された患者が直面するジレンマの 1 つに,数ある治療法のなかからどれを選択するかがある。これまでの研究では,生存面での恩恵はいずれの治療法でも大差がなく,ほとんどの患者は副作用を考慮したうえで治療法を選択している。McLaughlin教授は「現在のところ,手術,外照射放射線,密封小線源療法のいずれにも副作用は伴う。しかし,長期の副作用はいずれの治療法でも劇的に改善されてきた。前立腺下の組織に放射線を照射すれば長期的な問題が発生しうることは,かなり以前からわかっていた。こうした組織への照射を回避・低減する研究が開始されてから,副作用と長期の影響を劇的に改善できるようになってきている。おそらく,これが前立腺癌治療における最も有望な進歩だろう」と述べている。治療直後,Harvey氏は若干の不安を感じていたが,現在では前 立腺癌の治療を受けたことすら忘れるほどになったと説明。「治療前とほとんど変わらない。排尿も,性交も,歩いたり話したりするのも,以前と同じようにできる。尿失禁もないし,すべてが以前と同じだ。時々,体の動かし方によっては,ビーズが入っているんだな,そこに何かされたんだなという感じはある。治療を受けたのを思い出すのは,そのときくらいだ」と述べている。米国癌協会(ACS)によると,米国で2005年に前立腺癌と診断される患者は約23万2,000人で,そのうち約 3 万人が癌死すると見込まれている。死亡を回避するには早期発見が必須である。McLaughlin教授は「放射線科医として,よく『癌はなおるものですか』との質問を受けるが,前立腺癌に関しては,面と向かって治ると断言できる。その鍵はスクリーニングの在り方で,それにより,以前よりも前立腺癌を早期に発見できるようになった。さらに,最新治療により早期癌の90%が治癒している」と述べている。
リスク別の検診で早期発見を
現在では,リスク別のスクリーニング勧奨がなされている。例えばあるガイドラインは,アフリカ系米国人のスクリーニングは早期に行うべきとしており,Harvey氏もこれに従い早期診断を受けた。スクリーニング方法には直腸指診や,血液検査による前立腺特異抗原(PSA)の測定がある。PSA は前立腺癌が存在するとしばしば血中濃度が上昇する蛋白質マーカーである。1 年ごとのスクリーニングを開始する年齢は,以下のようにリスク別の勧奨がなされている。
(1)平均的なリスクの男性:50歳
(2)アフリカ系米国人:45歳
(3)第 1 親族(父親,兄弟,息子)が前立腺癌である男性:45歳
(4)第 1 親族内に 2 人以上の前立腺癌患者がいる男性:40歳
高再発リスク前立腺癌の生化学的再発抑制に放射線療法が有効[2005年12月15日 (VOL.38 NO.50) ]
テキサス大学保健科学センター(テキサス州サンアントニオ)放射線腫瘍学・泌尿器科学のGregorySwanson准教授らは,前立腺癌手術後の再発リスクが高い患者にアジュバント放射線療法を施行し生化学的再発率を50%低下できたと米国治療放射線・腫瘍学会(ASTRO)第47回年次集会の基調講演で報告した。
他の生存率は有意差ない
Swanson准教授らは,前立腺癌手術後の病理所見で被膜外浸潤,断端陽性,精�浸潤のいずれか,もしくは複合を確認した425例を,手術後16週間以内に60~64Gyの放射線療法を行う群と観察群とにランダム化割り付けした。10年間のフォローアップ後の転移なし生存率(主要エンドポイント)は,放射線療法群が71%,観察群が63%で,有意差は認められなかった。また,全生存率にも両群間で有意差は� ��かった(74%対66%,P=0.16)。しかし,10年後の生化学的再発なし生存〔前立腺特異抗原(PSA)値0.4ng/mL未満を維持と定義〕に関しては,観察群では210例(26%)であったのに対し,放射線療法群では214例(52%)と,有意(P<0.001)に改善された。さらに,生化学的再発までの期間の中央値は,放射線療法により3.1年から10.3年に延長された。治療期間中の尿路機能障害と軟便の発生は,放射線療法群で有意に悪化したが,5 年後のQOLに両群間で有意差は認められなかった。また,今回の検討では,放射線療法の施行でアンドロゲン除去療法が不要になった例もあり,適用患者においても施行を2.5年遅らせることができた。
同准教授は「進行前立腺癌の再発リスク低下にアジュバント療法が有効であることが確認されたのは,今回の研究が初めてで,今のところ唯一である。放射線療法は前立腺癌の標準治療として検討されるべきである」と結論。さらに「今回の研究は1980年代に計画されたもので,同様の患者に現在適用されている約70Gyよりも放射線量が低い。現在のように線量を70Gyにしたり,放射線と化学療法を併用していたら,放射線療法の有効性をさらに高めることができたはずである」と述べた。
ASTROの評議委員長でミシガン大学(ミシガン� ��アナーバー)放射線腫瘍学のTheodore Lawrence博士は,報道陣に対して「今後の臨床の在り方を大きく変える所見である。放射線療法は進行前立腺癌に有効なのか否かがこれまで議論されてきたが,今回,Swanson准教授らの研究と,同様の結果が得られた欧州からのもう 1 つの知見がそれに答を出した」とコメントした。
~前立腺癌再発マーカー~PSA値が今なお最も有用[2005年11月24日 (VOL.38 NO.47)]
前立腺特異抗原(PSA)の血中濃度による前立腺癌リスクの予測精度を疑う声が最近聞かれるが,ジョンズホプキンス大学(ボルティモア)Brady泌尿器科学研究所臨床講師のStephen J. Freedland博士らは,前立腺癌により根治的前立腺摘除術を受けた患者2,000例以上の解析の結果,術後の癌再発を最も的確に予測できたのはPSAであったと,Journal of Urology(2005; 174: 1276-1281)に発表した。
前立腺の健康状態の指標に
今回の研究では,前立腺の摘出前に高PSA値であった男性は,進展度,摘出組織における癌の異型度,前立腺外への癌細胞浸潤率のいずれも有意に高いことが確認された。さらに,術後のPSA上昇は,術前PSAが低い男性でも術後の癌再発リスクの増大と有意に相関していた。Freedland博士は「今回の知見は,前立腺摘出前のPSA値が術後の癌再発リスクと有意に相関していることを示しており,現行の前立腺癌マーカーのなかでは,今もなおPSAが最も有用であるという考えを支持するもので,PSAが現在も十分に通用することを明確に示している」と述べている。PSAは前立腺細胞で産生される蛋白質で,癌の存在によりその値は上昇する可能性がある。したがって,PSA値が高いほど, 前立腺癌に罹患している可能性も高くなる。また,一般的にPSA値が高いほど,悪性の癌の存在をより強く示している。同博士は「PSA値は,特定の時期の患者の前立腺の状態を医師に知らせる指標であるため完ぺきとは言い難いが,これまでに見出されたマーカーのなかでは最も優れている」と指摘。「これまでPSA値は,スクリーニングツールとして望ましいものを提供するだけでなく,進行癌を早期に発見し,転移の危険を減らすことができた」と付け加えている。
PSA上昇速度はさらに精度が高い
今回の研究では,1992~2004年に同大学で前立腺摘除術を受けた患者2,312例のカルテを解析。術前PSA値と術後の癌再発リスクとの相関を検討した。手術はすべて同大学泌尿器科学のPatrick C. Walsh教授が執刀した。平均 5 年間のフォローアップ期間に,211例で癌再発の徴候が認められ,術前PSA値が高い患者ほど,術後の癌再発リスクは有意に高かった。PSA値が10~19.9ng/mLの患者では,10ng/mL未満の患者と比べて術後の癌再発リスクは 3 倍以上,20ng/mL以上の患者では 5 倍以上であった。術後のPSA上昇は,PSA値が10ng/mL未満の患者でも術後の癌再発リスクと有意に相関しており,術後にPSA値が 2 ポイント上昇するごとに癌再発リスクは約 2 倍に増大した。Freedland博士は「今回の研究も含めたこれまでの研究から,PSAの 1 回の測定値は前立腺癌手術後の癌進行リスクの予測因子として非常に有用であることが明らかとなった。また,経時的なPSA上昇速度のほうが,単一の測定値よりもさらに有用であるようだ」と述べている。
前立腺癌へのアンドロゲン抑制療法有効性とリスクの慎重な評価を[2005年11月17日 (VOL.38 NO.46)]
米国立癌研究所(NCI)癌研究センター内科腫瘍学臨床研究部門のNima Sharifi博士らは,前立腺癌に対するアンドロゲン抑制療法(ADT)の恩恵とリスクについて,これまでの文献を再検討し,ADT施行が非常に適した患者と,そうでない患者がいることをJAMA(2005; 294: 238-244)に発表した。また,ADTが妥当でないにもかかわらず,施行されている患者がいる現状を指摘。ADTの有害作用の検討をさらに進めるべきであると結論している。
恩恵は進行癌と限局癌で異なる
進行前立腺癌や高リスクの限局性前立腺癌に対する姑息的治療としてのADTの有効性は確立されており,多くの患者に適用されている。しかし,QOLは改善しても,生存面での恩恵は明らかでない。また,限局癌に対する放射線療法を受けた高リスク患者では,ADTが生存期間を延長しうることが示されている。しかし,Sharifi博士は「そのほかの症例では,多くのリスクとQOLに対する有害性と照らし合わせたうえで,恩恵を慎重に検討する必要がある。しかし,現在こうした検討がきちんとなされているとは言えない」と指摘。「� ��移のない限局癌の治療後に前立腺特異抗原(PSA)値が上昇した患者には,しばしばADTが施行されるが,こうした治療戦略の恩恵は明らかではない」と述べている。ADTによる有害事象には,性欲減退,インポテンス,顔面潮紅,骨量減少症による骨折リスクの増大,代謝機能の変化(心血管疾患リスクの増大を含む),認知機能や気分の変化などが挙げられる。総じて,他の原因によるテストステロン欠乏症にしばしば似ており,顔面潮紅や性的障害など,患者のQOLに深刻な影響を及ぼすものもある。重要なのは,有害事象のなかには骨量減少症など予防できるものも存在することである。
手術か薬剤かを比較
Sharifi博士らは,薬剤もしくは手術によるアンドロゲン除去の相対的な恩恵に関しても言及している。手術は単純 で安全性も高いが,患者に大きな心理的影響を与えると強調。薬剤に関しては,ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬やGnRH拮抗薬の相対的な恩恵に言及した後で,こうした化学的な去勢では現在,目標血清テストステロン値が50ng/dL未満に設定されていることが多いが,精巣摘除術を受けた場合に達成される20ng/dL未満に変更すべきとする専門医もいることを指摘している。進行前立腺癌に対するADTの恩恵について,同博士らは,手術によるか薬剤によるかを問わず,骨痛,病理学的骨折,脊髄圧迫,尿管閉塞を減少させ,QOLを大きく改善すると結論。しかし,長期の生存予後が改善されるか否かは不明であるとしている。生化学的再発(限局癌の治療後にPSA値の連続上昇が認められるが,X線所見による転移が確認されない状態)患者� �対するADT施行については賛否両論があり,さらなる研究を要する。これに関して,同博士らは「早期ADTの施行が生存予後改善に与える影響は進行癌においても明確ではなく,ほとんどの生化学的再発患者にADTを施行すべき絶対的根拠はないと言える。しかし,早期のアジュバントADTが,局所進行癌もしくは高グレード癌患者の生存予後改善,さらに高グレード癌もしくは悪性度の高い癌の転移遅延に有効であることが示唆されており,これらのサブグループが生化学的に再発した場合には,ADTの適用は有益と考えられる」と述べている。
有害事象への対応を議論
ADTによる有害事象は重要な問題で,今回の検討でも詳細に論じられている。
顔面潮紅に関してはmegestrolによる治療が考えられ,既に 1 件のランダム化二重盲検プラセボ対照試験で同薬が有効であることが示されている。しかし,ADTとmegestrol投与を併用するとPSA値が上昇し,megestrolの中止で低下することが確認されている。ADT施行患者の顔面潮紅に対して,抗うつ薬の使用を検討した小規模パイロット研究があるが,Sharifi博士らによると,同様の目的の大規模プラセボ対照試験はないという。ADTによる骨量減少は大きな問題である。GnRH作動薬で治療中の転移のない前立腺癌患者を対象として,pamidronateの有効性を検討するランダム化試験が 1 件,マサチューセッツ総合病院(ボストン)のMatthew R. Smith博士らにより実施されており,pamidronateは骨密度(BMD)低下の予防に有効であることが確認されたとする研究結果がNew England Journal ofMedicine(2001; 345: 948-955)に発表されている。また,同様に同博士らによる転移のない前立腺癌患者を対象とした多施設二重盲検試験において,zoledronic acidの有効性が確認されたとJournal of Urology(2003; 169: 2008-2012)に発表された。さらに,同薬はモントリオール大学Centre Hospitalier(カナダ・モントリオール)のFred Saad博士らによるアンドロゲン非依存性の転移前立腺癌患者を対象としたランダム化プラセボ対照試験でも有効性が確認され,Journal of the National CancerInstitute(2002; 94: 1458-1468)に発表されている。 骨粗鬆症リスクはADT施行前に評価されるべきである。危険因子としては,骨粗鬆症の家族歴,低体重,骨折の既往,飲酒過多,喫煙,糖質コルチコイドの使用,ビタミンDの低値,関連する共存疾患が挙げられる。また,施行開始前にBMDを測定すべきである。ADT開始後は全例にカルシウムとビタミンDのサプリメントを投与し,喫煙と過度の飲酒を節制させる。Sharifi博士は「ADT施行患者へのビスホスホネートのルーチン投与は,骨粗鬆症が確認されるか,骨転移を伴うアンドロゲン非依存性の前立腺癌以外では推奨されない」と述べている。ADT施行後の勃起不全は重大なQOL上の問題である。同博士らは,陰茎プロステーシスや,陰圧式勃起補助具,陰茎海綿体へのプロスタグランジン注射などの可能性に言及し� ��いる。
評価の定まっていない項目も
ADT施行後の代謝機能の変化に関して,Sharifi博士らは,body mass index(BMI),総コレステロール,トリグリセライドの上昇,および体脂肪の増加と除脂肪体重の減少などが挙げられるとし,いくつかの研究において,HDLコレステロール値,空腹時血糖値,HbA1c値の上昇が示唆されていることを指摘。これらは比較試験に基づく知見ではないが,生理的変化の観察研究結果と一致しているという。同博士は「体脂肪とコレステロールの上昇,impaired glucose tolerance(IGT)が同時に存在すれば,いわゆるメタボリックシンドロームということになる。転移を伴う前立腺癌はADT適用の正当な理由となるが,それ以外の病態で年齢が中央値で70歳の患者群には,心血管危険因子の増大を慎重に査定すべきであると思われる。特に,生化学的再発患者の生存に対する恩恵は明らかでない」と述べている。ADTが関与する認知機能と気分の変化に関しては,研究結果は一貫性に欠け見解が一致していない。ADTの施行後に多くの男性で正球性正色素性貧血が起こっている。そのほかの重要な有害事象としては,女性化乳房,ドライアイ,体毛減少,めまいが挙げられる。現時点で評価の定まっていないものとしては,以下のものがある。(1)抗アンドロゲン療法と手術,薬物療法の併用:併用療法で死亡例を 1 例減らすのに必要な治療必要数(NNT)は20~100例と見積もられており,治療費も膨大である(2)間欠的アンドロゲン抑制療法:現在,いくつかの試験が進行中であるが,前向きランダム化試験のデータは得られていない(3)非ステロイド系薬によるアンドロゲン抑制の単剤療法:米国臨床腫瘍学会(ASCO)はADTの代替療法として検討すべきとしているが,ステロイド系の抗アンドロゲン療法は単独施行されるべきではない
前立腺癌への照射は標準線量より高線量を再発リスクをより低減[2005年11月17日 (VOL.38 NO.46) ]
ハーバード大学およびマサチューセッツ総合病院(ともにボストン)放射線腫瘍科のAnthony L. Zietman教授らは,限局性前立腺癌に対する外照射放射線療法(EBRT)では,標準線量を照射するよりも高線量を照射したほうが癌再発の傾向が低いとJAMA(2005; 294: 1233-1239)に発表した。
CTにより照射部位を正確に特定
現在,米国では前立腺癌患者の過半数が限局癌のうちに診断を受け,治療法の 1 つであるEBRTは年間 2 万6,000例以上に施行されている。しかし,標準線量のEBRTが奏効せずに,前立腺特異抗原(PSA)値が上昇し,二次治療を必要としたり,臨床的再発に至る症例は多い。限局癌は照射量を増やすことで管理しやすくなるが,腫瘍周囲の正常組織の損傷を防がなければ有害事象の発生率も増大する。1990年代にCTスキャンにより放射線照射部位をより正確に特定し,高線量を照射できる方法が数多く実用化された。こうした技術は" 3 次元原体照射療法"(3D-CRT)と総称されており,種類として陽子ビーム,conformal光子ビーム,強度変調光子ビームなどがある。Zietman教授らは今回,低リスク癌の患者を含め,こうした高線量照射により前立腺腫瘍のコントロールを改善できるか否かを検討した。1996年 1 月~99年12月に,T1b~T2b期の前立腺癌でPSA値15ng/mL未満の患者393例を,総線量70.2Gy(標準線量)もしくは79.2Gy(高線量)のEBRTのいずれかにランダム化割り付けした。PSAの中央値は6.3ng/mLで,フォローアップ期間の中央値は5.5年であった。照射法はconformal光子ビームと陽子ビームが併用された。その結果,治療 5 年後の生化学的再発(PSA値の上昇)なし患者の割合は,標準線量群が61.4%であったのに対し,高線量群では80.4%と治療非奏効リスクが49%減少した。こうした高線量照射の恩恵は,低リスクと高リスク患者のいずれの亜群でも認められた(リスク低減率はそれぞれ51%,44%)。治療群間で総生存率に有意差は認められなかった。放射線療法腫瘍学グループ(RTOG)基準のグレード 3 以上の急性尿路・直腸合併症の発生率は,標準線量群が 1 %,高線量群が 2 %といずれも低く,現在までの同グレード 3 以上の晩期尿路・直腸合併症の発生率も,標準線量群が 2 %,高線量群が 1 %と低かった。同教授は「今回のランダム化試験では,臨床的に限局性の前立腺癌患者に対するEBRTは,標準線量よりも高線量を照射するほうが,5 年後以降のPSA値上昇,局所持続性病変率は低いことがわかった」と述べている。
生存アウトカムへの恩恵は不明
ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)のTheodore L. DeWeese,Danny Y. Songの両博士は同誌の付随論評(2005; 294: 1274-1276)で,今回の試験と前立腺癌治療における放射線量について「Zietman教授らの研究は,臨床的に限局性の前立腺癌に対して,現在では高線量照射を安全に施行できることを確認した。高線量照射と癌の良好な生化学的管理との相関が認められたわけだ。しかし,こうしたPSA管理の改善が,生存期間の延長などの臨床的に重要なエンドポイントを意味するのか否かはまだ明らかではなく,今回の研究は究極の恩恵が不明瞭なままで,軽度であれ線量増加がもたらす実際的なリスクの増大を患者は受け入れるべきなのかという重要な問には答えていない」とコメントしている。またDeWeese博士らは,ほかにも未解決の問題として,79Gyを超える線量照射で恩恵はさらに高まるのか,どのような線量漸増法が最適なのか,さらに前立腺癌に対し� ��放射線療法にアンドロゲン抑制療法を追加した場合,患者によっては生存率が改善されることが最近示されたが,線量増加は放射線療法のアウトカム改善策としてそうした併用療法よりも優れるのかも今後の検討課題として挙げている。同博士らは「今回のランダム化試験データは低リスクの前立腺癌患者にも高線量を照射することを支持しており,今後の研究を進めるうえでの重要な基礎を築いたと言える」と結んでいる。今回の試験は米国立癌研究所(NCI)の助成を受けた。
早期前立腺癌に一時刺入小線源療法単独施行で他の治療に匹敵する効果[2005年11月17日 (VOL.38 NO.46)]
テキサス工科大学(テキサス州ルーバック)内科のRufus Mark臨床助教授らは「早期前立腺癌に対する高線量率の一時刺入小線源療法は,他の治療法と同等に有効であることが示唆された」と米国治療放射線・腫瘍学会(ASTRO)の第47回年次集会で報告した。
にきびのための手作りfacewashes
有害事象が少なく低コスト
Mark助教授は「今回の研究では,高線量率小線源療法単独でも,他の治療法で達成されたのと同等か,それ以上の良好な成績が得られた」と述べた。同助教授らは,1997~2005年に前立腺癌患者145例を登録し,高線量率または低線量率の小線源療法を実施するとともに,一部の患者に対しては外照射放射線療法(EBRT)を併用して,それぞれの有効性を比較した。高線量率の一時刺入小線源療法では,12~20本のカテーテルを前立腺に刺入しておき,そこにイリジウム-192小線源を挿入する。小線源の正確な位置決めはコンピュータガイド下で行う。患者はカテーテル抜去まで 2 日間入院する必要がある。同助教授によると,当初は高線量率小線源療法をEBRTとの併用で施行していたが,健常組織の放射線被曝を伴うEBRTを併用しても治療上の利点がないことが複数の研究で示されて以来,高線量率小線源療法単独での施行に切り替えたという。その結果,単独施行でも他の治療法に匹敵する効果が得られ,有害事象の発生も少ないことが示唆された。さらに,コスト面でも優れていることが明らかになった。米国での高線量率小線源療法のコストは総額約5,000ドルで,総額,保険適用額ともに根治的前立腺摘除術の場合と同等である。 同助教授は「一時刺入小線源療法は永久刺入密封小線源療法に比べ有害事象の発生率が低いようである。永久刺入療法では放射性ヨードまたは放射性パラジウムの小線源を数十個,前 立腺内に封入して永久留置する。この場合,小線源のコストだけで高線量率一時刺入小線源療法の総額に匹敵する額になる」と述べた。 しかも,永久刺入療法では小線源は密封されるものの,移動してしまうことも多く,肺や脳,心臓などに到達する場合もある。また,放射線の放出期間は約 2 週間で,移動した小線源が重度の合併症を引き起こすことはまれだが,不快感の原因となることは多い。今回の被験者145例中131例(90%)は, 5 年後に実施された前立腺特異抗原(PSA)測定により,癌のない状態であることが確認された。11例で二次治療を必要とする尿路障害,4 例で膀胱への遅発性毒性,8 例で直腸への遅発性毒性が生じた。ウィーン大学(オーストリア・ウィーン)放射線腫瘍学のRichard Poetter教授は,今回の研究に関して「高線量率一時刺入小線源療法は欧米のいくつかの施設で実施されてきたが,今回の研究から少なくとも前立腺癌に対しては永久刺入療法と同等の効果を期待できることが明らかになった。婦人科領域の癌では既に40年前から臨床適用されているため,多くの施設では前立腺癌への適用拡大に必要なハード面の設備は既に整っている」とコメントした。
ライフスタイルと食事の変更で前立腺癌の進行を有意に抑制[2005年11月3日 (VOL.38 NO.44)]
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)泌尿器学のDean Ornish臨床教授らは,早期前立腺癌患者に徹底的な食事の管理とライフスタイルの改善を行わせることで,癌の進行を抑制できるとする新知見をJournal of Urology(2005; 1743: 1065-1070)に発表した。
腫瘍細胞の増殖を阻害
今回の研究は,ライフスタイルの変更があらゆる種類の癌の進行にも影響することを示した初のランダム化比較試験で,Ornish教授のほかUCSF泌尿器学科長のPeter Carroll博士,スローン・ケタリング記念癌センター(ニューヨーク)の元泌尿器外科部長/泌尿器腫瘍学科長の故William Fair博士らが中心となって実施した。Ornish教授らは,生検により前立腺癌が確認されたが標準治療を受けないことにした患者93例を登録。食事とライフスタイルの総合的な変更を行う群(介入群)と行わない群(非介入群)にランダム化割り付けした。患者が標準治療を選択しなかった理由は,今回の試験実施とは関係がなかった。 1 年後,介入群では前立腺特異抗原(PSA)値が低下したのに対し,非介入群では上昇した。ライフスタイル変更の程度とPSA値との間には,直接相関が認められた。また,患者の血清をin vitroで検討した結果,介入群の70%で血清が前立腺腫瘍細胞の増殖を阻害したのに対し,非介入群では 9 %であった。ライフスタイルの変更の程度と前立腺腫瘍細胞の増殖阻害との間にも直接相関が認められた。
非介入群で6例が治療対象に
介入群には果物,野菜,全粒穀物,豆類に加え,大豆とビタミン・ミネラル類のサプリメントを補給する徹底的な菜食主義を実践させ,また,中等度の有酸素運動,ヨガと瞑想,週 1 回のグループセッションに参加させた。登録栄養士がカウンセリングを担当し,ケースマネジャーの看護師が最初の 3 か月は週 1 回,その後は月 1 回連絡を取るようにした。介入群で試験期間中に手術,放射線療法,化学療法といった標準的な前立腺癌治療を受けた患者は 1 例もなかったが,非介入群では 6 例が癌の進行により標準治療の適用となった。また,介入群ではQOLの著明な改善も認められた。Carroll博士は「今回の研究は,前立腺癌患者と前立腺癌の予防を望んでいるすべての男性にとって重要な新知見を提供するものである」と述べている。前立腺癌の予防と治療に食事とライフスタイルが及ぼす厳密な影響をよりよく理解するために一連の研究が進められているが,今回,初めてその結果が発表された。
標準治療患者にとっても有益
非営利医学研究団体である予防医学研究所の創始者で現所長のOrnish教授は,「われわれは以前の研究で,食事とライフスタイルの変更により冠疾患の進行を抑制できることを確認しており,こうした介入は前立腺癌に対しても有用ではないかと考えた。今回の知見は,標準治療を受� �る前立腺癌男性にとっても,ライフスタイルの総合的な変更は有益であることを示唆している。食事とライフスタイルの変更が前立腺癌予防に役立つという新しいエビデンスを提供するものである」と述べている。同教授らは現在,食事とライフスタイルの変更が疾病状態と死亡率に与える影響を検討するため,同患者群のフォローアップを継続している。
座談会 高齢者前立腺癌の診断と治療[2005年10月13日 (VOL.38 NO.41) ]
急速に進む人口の高齢化とともに,高齢者の前立腺癌が増加の一途にある。前立腺特異抗原(PSA)を用いた前立腺癌検診の普及は早期前立腺癌の発見に大きく寄与しているが,高齢者の場合には何歳まで無症状の前立腺癌を発見する意義があるのかといった問題がある。治療面では併存疾患とQOLへの配慮が求められ,癌が見つかった時点での平均余命との兼ね合いも考慮する必要がある。また,高齢者の限局性前立腺癌に対し積極的治療を行うか,待機的に経過観察とするかの議論もある。前立腺癌の研究・診療に取り組んでいる京都地区の専門家にお集まりいただき,高齢者の前立腺癌の診断と治療をめぐって話し合っていただいた。 出席者:小川 修氏(司会)京都大学大学院医学研究科器官外科学講座泌尿器病態学教授 賀本敏行氏 京都大学大学院医学研究科器官外科学講座泌尿器病態学助教授 山田 仁氏医仁会武田総合病院泌尿器科手術部長 奥野 博氏 国立病院機構京都医療センター泌尿器科医長 京都市立病院泌尿器科部長
前立腺癌における高齢者とは
小川 厚生労働省の最近の発表によると,日本人の平均寿命はまた延びて女性は20年連続世界一,男性も 1つ順位を上げて世界 2 位の長寿大国になったということです。今後ますます高齢者の前立腺癌増加が予想されるわけですが,最初に前立腺癌における高齢者の定義についてお考えを伺いたいと思います。京都大学名誉教授の亀山正邦先生は,高齢者を前期高齢者(65~74歳),後期高齢者(75~84歳),超高齢者(85歳以上)に分けておられます。後期高齢者以降では,日常生活自立度の低下,認知機能の低下など老年症候群が増加すると言われているようです。特に前立腺癌では年齢に配慮した治療選択が必要になるという意味で,高齢者として意識する年齢は何歳からでしょうか。
賀本 日本人男性の場合,最近では75歳での平均余命は11年に延びていますが,以前から「10年はコントロールしたい」という積極的治療の対象の上限を75歳としていることが� �いと思います。
山田 平均余命と患者さんの考える期待余命には差がありますが,やはり平均余命から75歳以上ですね。平均余命10年というところが治療を考えるうえで重要であり,そこが線引きのポイントとなります。
小川 実際には85歳以上の超高齢者の前立腺癌を治療する機会もありますが,ここでは75~84歳の後期高齢者の前立腺癌を対象に討論を進めていきたいと思います。
高齢者におけるPSA測定の意義と生検の適応
有症状者のPSA測定は必要
小川 最近は検診による前立腺癌の発見も増えていますが,何らかの症状があって泌尿器科を直接受診する場合もあります。まず,有症状の後期高齢者にPSA測定は必要かという点についてお尋ねします。
奥野 前立腺癌に伴う症状は,局所症状としての排尿障害あるいは転移に伴う骨の痛みなどです。もちろん,他疾患でもこのような症状は現れますが,PSAを測定することでもし癌が見つかれば,治療によりQOLの改善が期待できます。したがって,有症状の患者さんではPSAの測定は意義があると思います。
小川 高齢男性では前立腺癌だけではなく,前立腺肥大症などによる排尿障害が多いところに難しさがありますね。
上田 男性の後期高齢者では,20%近くがすでに排尿� ��害を持っています(表 1)。問題はそれを「年齢のせい」と考え,病的なものとして捉えない場合が多いことです。実際,排尿障害の自覚のある高齢男性が医療機関にかかる割合は数%にすぎません。しかし,「問題がある」と感じている人はかなり多く,そこに検診の意義があります。検診は前立腺癌だけではなく下部尿路機能障害の早期発見にも役立ち,QOLを考えるうえでも重要です。
小川 排尿障害の症状が前立腺癌によるものか否かの判別は難しいのですが,前立腺癌の可能性を否定できなければ積極的にPSAを測定し,生検を考慮する。他の疾患が考えられるのであれば,PSAは測定するにしても生検の適応は慎重に考えるべきだと思いますが,そのあたりはいかがでしょうか。
奥野 前立腺への針生検は侵襲を伴い,発熱やときには敗血症を� �たすこともあります。ですから,癌を疑う明らかな異常がなければ,1 回のPSA測定で即生検を行うことには問題があります。PSAを定期的に測定し,上昇速度が速い場合には癌の可能性が高いと考え,生検により確かな診断をつけることが大切だと思います。
検診でのPSA測定は80歳までが妥当
小川 症状のない人のスクリーニングに話を進めたいと思います。無症状の場合,何歳までをPSA測定の対象とするのが妥当とお考えですか。
奥野 検診を受ける人の全員が無症状というわけではありませんが,80歳を超えた無症状の人にPSAの測定を行うことには疑問があります。前立腺癌は進行が非常にゆるやかなこと,また80歳を超えた人の平均余命を考えると,症状が出てから治療を開始しても遅くはありません。ですから,無症状の人のPSA測定は80歳までが妥当と考えます。
山田 平均� ��命から考えると,80歳を超えた無症状の人の早期癌を積極的に見つけることにそれほど価値はありません。ただし,80歳を超えても非常に元気な方がいます。検診でのPSA測定にそうした側面を加味すべきかどうかについては,慎重な議論が必要ではないかと思います。
小川 検診でのPSA測定に何かデメリットはありますか。
奥野 やはり潜在癌を見つけてしまうことですね。それにより不要な生検や治療をしてしまう危険性があります。高齢者における生検の現状を2004年度の京都市伏見区(伏見医師会主催)の前立腺癌検診結果からみますと前立腺癌の発見率は約1.5%(図 1)で,全体(50歳以上)ではPSA 4.1以上の要精検者は8.6 %,うち生検ありは42.5%,生検中癌ありは40.4%に対し,75歳から84歳の後期高齢者に限ってみますと要精検者14.2%,うち生検ありは36.7%,生検中癌ありは45.5%という結果でした(図 2)。高齢者になるほど要精検者の割合が高くなる一方,生検を受ける割合は減少し癌発見率は増加している傾向がみられます。これはおそらく 2 次検診医師がPSA値・PSA-density (PSA値/前立腺体積)・検診者の全身状態などを参考に生検の適応を慎重に考えているからだと思います。
75歳以上の限局性前立腺癌の治療
最近の話題は待機療法
小川 後期高齢者の限局性前立腺癌に対する治療選択について考えてみたいと思います。
賀本 積極的治療として外科手術と放射線治療がありますが,併存疾患の問題などから後期高齢者に手術療法を選択する施設は非常に少ないのが現状です。私たちは,80歳までは根治的な放射線治療を選択しています。早期に行う内分泌療法もある意味で積極的治療の範疇に入ります。一方,最近は待機療法(watchful waiting:WW)が話題となっています。後期高齢者では,経過観察を続け必要に応じて内分泌療法を行う待機療法を,もう少し重視すべきではないかと考えています。表 2は,1994年に発表されたChodakらのメタ解析の結果です。PSA検査がなかった時代に待機療法の候補となる患者さんを明らかにしたもので,Grade 1 あるいは 2 であれば,平均余命とほぼ同等の生存期間を期待できることが示されています。しかし,Grade 1 に比べGrade 2 では転移を有する割合が明らかに高かったことから,Grade 3 は当然ですがGrade 2 の患者にも積極的な治療が必要と考えられます。
Low risk例では待機療法が第一選択
賀本 治療方針の選択に関しては,病理所見(Gleason Score),PSA値,臨床病期に基づくリスク分類の導入が進んでいます。私は,リスク分類により患者さんをLow risk,Intermediate risk,Poor riskの 3 段階に分類し(表3),この分類により後期高齢者の治療方針を選択することを提案します(表 4)。例えば,Low riskの患者さんでは待機療法が第一選択となり得ますが,PSAで厳重に経過を追うことが絶対の前提条件であり,それによってより早く内分泌療法を開始することが可能となります。ですから,待機療法では遅延内分泌療法だけが選択肢となるわけではありません。また,排尿障害はQOLを損ねるため積極的に治療すべきであり,内分泌療法が推奨されています。Poor riskは年齢にかかわらず治療すべきです。Intermediate riskに関してはいろいろ意見のあるところですが,80歳までは放射線治療を積極的に推奨し,待機療法は希望者のみという考えです。
奥野 Intermediate riskでは80歳までは放射線治療を積極的に推奨するということですが,選択肢として手術療法もあるのではないでしょうか。特に下部尿路機能障害のある患者さんでは,放射線治療による尿閉などでQOLが低下する場合があります。一般活動状態(PS)が良好で併存疾患がなく,75歳に近い患者さんでは手術療法が適応となる場合もあると思います。それから,待機療法では外来の主治医が代わるときは注意が必要ですね。
賀本 それは非常に大切です。私たちは,待機療法とした患者さんが欠かさず外来に来ているか必ずフォローしています。
脳梗塞の併存は予後を悪くする
小川 後期高齢者では,患者側の要因として併存疾患が多いという問題がありますがいかがですか。
山田 高分化型の癌は後期高齢者の� �命予後にほとんど影響しないので,待機療法として必要なときに内分泌療法を行えばよいと思います。一方,低分化型の癌は生命予後に影響を及ぼすため治療は積極的に行うべきで,その場合には併存疾患を十分に考慮する必要があります。高齢者の生命予後に影響しやすく頻度も高い併存疾患として,虚血性心疾患や脳梗塞,糖尿病などがあります。特に脳梗塞は予後を非常に悪くすることが知られており,脳梗塞のある患者さんには積極的な治療はあまり勧められません。一方,78~80歳ぐらいで併存疾患がなくPSも良好な患者さんに対しては,もっと積極的な治療を考えてもよいのではないかと感じています。
小川 最近は手術手技も向上し,出血量も少なくなっています。80歳前の元気な患者さんが,最初から手術の対象外と� �れる
ことには,確かに「どうかな」という感じはありますね。
奥野 併存疾患に関しては,認知症のある患者さんへの対応が今後問題となってくるのではないかと感じています。
山田 認知症では,特に脳血管型の認知症が脳梗塞と同程度に生命予後を悪くします。
賀本 併存疾患を有する患者さんに対して小線源療法(ブラキセラピー)がどのような位置づけになるのかという点も,今後の検討課題の 1 つです。
75歳以上の進行前立腺癌の治療
無症状ならLH-RHアナログの単独使用も
小川 次に,発見時にすでに進行癌が認められた患者さんの治療に話を進めます。転移があること自体が悪性度の高い癌であり,早晩,症状が出てくることは明らかなので,おそらく内分泌療法をされていることと思います。
奥野 MAB(maximum androgen blockade)なのかLH-RHアナログ単独かは議論の分かれるところですが,無症状であればLH-RHアナログを単独で使用することも考えられます。
小川 高齢者に内分泌療法を行う場合には併存疾患,特に糖尿病への影響に注意すべきです。一方,長期内分泌療法による骨粗鬆症という問題もありますが,病的骨折などを経験されたことはありますか。
賀本 骨転移のない患者さんで,内分泌療法施行中に圧迫骨折をきたしたケースを何例か経験しています。骨折時のテストステロン値は去勢レベルになっていましたが,内分泌療法開始から何年も経っていたわけではないので,内分泌療法よる骨粗鬆症が原因の骨折とは結論づけられませんでした。
耐糖能異常に注意を
小川 後期高齢者に対する内分泌療法で,特に注 意されていることは何ですか。
賀本 耐糖能異常が一番心配です。もともと糖尿病のあった患者さんでしたが,ケトアシドーシスで入院された方を経験しました。糖尿病を診ている先生には,「LH-RHアナログを使っているときに血糖コントロールが難しくなることがある」ということは必ず伝えています。そのほか皮下脂肪が増えることによる肥満,またhot flushは考えている以上に頻度が高いという印象があります。
上田 話題は変わりますが,高齢者に前立腺癌が見つかると,それまで他の疾患の治療を受け持っていた科が手を引くことが結構あります。「糖尿病はコントロールされているはず」と考えていたら,実は全く診てもらっていなかったというようなことが起こります。言い古されていることですが,前立腺だけに目を向けていると落とし穴がありますね。
高齢前立腺癌患者のQOLとは (排尿機能などを含む)
併存疾患を含めたトータルのQOLを考えるべき
小川 さきほども話題に出ましたが,後期高齢者では併存疾患が多く見られます。また,排尿障害の頻度も高いことから,QOLの問題を十分考慮して前立腺癌の治療に当たる必要があります。後期高齢者のQOL,特に排尿障害に関して上田先生お願いします。
上田 一般住民を対象とした私たちの調査でも,排尿障害は男性の後期高齢者のQOLを障害する最も大きな因子の 1 つであることが示されています。問題はそれが「年齢のせい」と考えられ,ほとんど治療対象となっていなかったところにあります。米国の国立衛生研究所(NIH)と国立癌研究所(NCI)はすでに1988年に,「正常な老化では排尿障害は起こらない」というコンセンサス・ステートメントを出しています。米国では前立腺癌は国を挙げて解決すべき癌の1つであり,検診の意義は早くから認識されていました。アンケート調査をすると,高齢者は 1 日でも長く,かつQOLを保った状態で生きたいと望んでいることがはっきりとわかります。後期高齢者のQOLに多大な影響を及ぼす排尿障害のリスクファクターには,脳血管障害,狭心症,糖尿病や,泌尿器科領域では繰り返す尿路感染症(膀胱炎)があります(表 5)。これらを併せ持つ高齢者の前立腺癌を治療するうえで,併存疾患のQOLを考慮することなく前立腺癌だけの治療をしたところで,トータルのQOLは良くはなりません。当然といえば当然の話ですが,注意すべき点です。
小川 後期高齢者ではQOLという観点から治療方針を考える必要があるという意味で,排尿障害の評価は非常に重要ですね。
排尿障害の視点から治療法を、比較した前向き試験はない
賀本 排尿障害に視点をおいて,前立腺癌の治療法を比較したデータはあるのでしょうか。
上田 その比較に関する前向き試験データは今のところありませんが,非常に興味のあるところです。
賀本 放射線治療で尿閉をきたすことがあるので,排尿障害が高度な場合には手術あるいは内分泌療法のほう がよいのではないかと考えています。しかし,現状ではその点について明確なエビデンスを示した研究はないということですね。
75歳以上の内分泌不応前立腺癌の治療
治療選択肢は限られている
小川 進行前立腺癌は病状の進行とともに内分泌不応性になります。その生命予後は非常に悪く,いかなる治療を行っても平均 2 年といわれていますが,どのように治療されていますか。
賀本 高齢者だけでなく,内分泌不応性の前立腺癌に対する治療オプションは限られているのが現状です(表 6)。アンチアンドロゲン除去症候群(anti-androgen withdrawal syndrome)は必ず観察していますので,次にアンチアンドロゲン交代療法を行います。私たちは可能な限り内分泌療法を続けた後,エストラムスチンを投与することが多いですね。しかし,消化器症状などの副作用が強く発現する場合があり,高齢者では常用量を投与できないこともあります。
小川 エストラムスチンの投与で心不全をきたす場合がありますね。
賀本 経験しています。また,エストロゲンを含有しているので,血栓症には注意が必要です。その後の治療としては低用量のステロイド(デキサメタゾン)療法でしょうか。
ターミナルケアとして考えていかざるを得ない
小川 山田先生,いかがですか。
山田 制癌に有効な手段が乏しいためQOLを障害する要因を除くことを主眼に,放射線� �療やモルヒネ製剤による疼痛コントロールを行います。エストラムスチンを使用する機会も多いのですが,副作用により投与量の減量が必要なケースが多く,またPSAのデータを見ると効果の持続は長くても半年程度のことが多いようです。やはり,基本的にはターミナルケアとして考えていかざるを得ないと思います。
小川 日本ではまだ承認されていませんが,タキサン系抗癌薬をベースとしたレジメンが内分泌不応性前立腺癌の予後を延長するとされています。特にドセタキセル*を用いた治療は患者さんの身体的負担が少ないという理由から,欧米ではかなり行われています。
賀本 ドセタキセルに関しては少数例しか経験がありませんが,パクリタキセル*をベースとしたレジメンを25例に施行しました。このうち後期高� ��者は 4 例のみで,患者さんの状態や主治医の考えで後期高齢者への投与を控えたと考えられます。奏効率も満足できるものではありませんでした。ドセタキセルについてはわが国でも治験中で,将来的にはPSが良好な80歳前の患者さんの治療選択肢となる可能性はあるかもしれません。
小川 後期高齢者の前立腺癌の診断と治療について,幅広く討論してきました。QOLと余命と根治のバランスのなかでdecision makingをせざるを得ないこと,またそこに高齢者前立腺癌の難しさがあることが改めて示されたと思います。先生方,どうもありがとうございました。
*本邦において前立腺癌の効能・効果は未承認です。
前立腺癌 癌ワクチン投与後の抗アンドロゲン療法で有効性高まる[2005年10月6日 (VOL.38 NO.40)]
第 II 相試験で有効性を確認
今回報告されたのは,癌の転移は認められないがPSA値が上昇した患者を対象とした第II相試験の結果。前立腺癌の治療では男性ホルモンであるアンドロゲンの濃度を抑制するための抗アンドロゲン療法が施行されることがあるが,数年後に癌が再発することも多く,PSA値の上昇は癌再発のマーカーとされている。前立腺癌治療で抗アンドロゲン療法と癌ワクチンとの併用が検討されたのは今回が初めてで,ランダム化試験での検討も初めて。癌ワクチンは既存の癌の治療や癌の発症予防用に設計されており,今回用いられた実験的ワクチンは,前立腺癌に対する生体防御機構を強化するような設計となっている。Arlen博士は「今回の試験は,標準のホルモン療法が奏効しない前立腺癌患者をどう治療するかとい う問に答えるためのもので,CT所見で転移は認められないが,癌再発マーカーであるPSA値が上昇し,ホルモン療法に抵抗性となった患者群を対象とした」と述べている。前立腺癌の増殖は体内のテストステロン産生により促進されることがあるが,今回抗アンドロゲン療法として用いられたnilutamideにはテストステロンの過剰産生を抑制する作用がある。同博士らは,前述の基準に合致する前立腺癌患者42例を前立腺癌ワクチン投与群とnilutamideによる第二選択抗アンドロゲン療法群のいずれかにランダム化割り付けした。治療開始から 6 か月後に転移の徴候はないがPSA値が上昇した患者は,他方を追加して併用療法を選択できた。ワクチン群では重度の副作用は認められなかったが,nilutamide群ではまれに見られる副作用である肺毒性など,重度の有害事象が確認された。PSA値再上昇までの期間の中央値はワクチン群が9.9か月,nilutamide群が7.6か月と,両群間に統計学的な有意差は認められなかった。しかし,nilutamide群のうち 6 か月後にワクチン投与を追加した患者 8 例では,再発までの期間が中央値で5.2か月延長されたのに対し,21例のワクチン群のうち 6 か月後にnilutamideを追加した12例では,再発までの期間が中央値で13.9か月延長され,このサブグループでの当初の治療開始から通算した非再発期間は25.9か月となった。
食欲不振、切削
ワクチンが下地を整える作用
Arlen博士は「ワクチン投与からスタートして抗アンドロゲン療法を組み込んだほうが効果が高かったのは,おそらくワクチンが免疫系の"下地を整える"作用を果たし,ホルモン療法を追加したときにワクチンの働きがさらに増強されたためと思われる」と説明。「今回の研究はワクチンによる免疫療法とホルモン療法の相乗効果を示唆している」と付け加えた。ワクチン/ホルモン療法併用の試験を行う根拠となったのは,これまでの臨床観察により,ホルモン療法には前立腺の免疫細胞数を増加させる働きがあり,これによりワクチンの有効性が増すことが示唆されたためである。同博士らは現在,今回の試験と同等の患者群におい� �,抗アンドロゲン療法を追加で用いるのではなく,ワクチン投与と同時に開始した場合の有効性を検討するフォローアップ試験を計画している。同試験では,より新しく強力な前立腺癌ワクチンを検討し,nilutamideよりも副作用の発生率・重症度ともに低いフルタミドをホルモン療法として用いる予定である。同博士は「将来の目標は治療の早期段階でワクチンを導入することである。今回,こうした治療法の安全性と耐容性の高さを示せたので,次は,同じ背景の患者群において病態の安定もしくは改善を維持し,癌の転移を阻止したい。これが達成されれば,患者はQOLの面できわめて大きな恩恵を得ることができる」と結んでいる。
前立腺がん早期発見のため、PSA値に加えて使用できるマーカーが求められている。米Michigan大学のXiaoju Wang氏らは、前立腺がん組織に発現されている22個の抗原を認識する自己抗体の存在を調べれば、PSAに勝る精度と感度でこのがんの患者を特定できる 可能性を示した。詳細は、New England Journal of Medicine(NEJM) 誌2005年9月22日号に報告された。 がん患者は、腫瘍に発現されている抗原に対する自己抗体を持つ、という報告は複数ある。そうした自己抗体は、診断や予後予測に利用できる可能性がある。著 者たちは先に、前立腺がんの上皮細胞に過剰発現されているアルファ・メチルアクリル-コエンザイムAラセマーゼに特異的な自己抗体を持つ患者を発見、前立 腺がん検出にこの抗体を用いた場合、特異性は72%、感度は62%になることを示した。そこで著者たちは、こうした自己抗体を複数利用し(自己抗体シグネ チャ)、特異性と感度を高めて、前立腺がんの早期発見に役立てようと考えた。まず、組織・血清バンクから条件に合う前立腺がん患者由来の血清を選出、対照群としてがんの病歴のない人の血清を得た。また、前立腺がん組織標本39検体と、非がん組織標本21検体を入手し、ファージ・ディスプレイ・ライブラリの作成を進めた。 がん組織から抽出したmRNAからcDNAライブラリを作成し、ファージを使って、正常な血清とは反応せず、患者血清とだけ反応する抗原をまず2304種 類選び出した。この中から、ヒト抗体との結合性が高い186種類を選出して反応を確かめ、最終的にがん患者と対照群の血清の区別において最も有効な22種 類のペプチド(抗原)を同定した。患者60人、対照群68人に適用したところ、特異性88.2%(95%信頼区間0.78-0.95)、感度81.6% (0.70-0.90)が示された。作成したファージ・ペプチド・パネルの新マーカーとしての診断能力をPSAと比較するため、受信者 動作特性(ROC)曲線を作成してROC曲線下面積を求めたところ、0.93(95%信頼区間0.88-0.97)だったのに対して、PSAは0.80 (0.71-0.88)となった。ロジスティック回帰分析により、新マーカーの検出能力は、PSAを有意に上回ることが示された(P< 0.001)。22個のペプチドのうち、5つはコード領域由来、それ以外は非翻訳領域由来だった。コード領域由来のペプチドのうち、4 つは既知のたんぱく質の一部だった。これらのたんぱく質は、細胞内に存在し、転写または翻訳の制御の役割を果たすことが知られている。著者たちは、公開さ れているDNAマイクロアレイのデータを集め、メタ分析を実施したところ、これらのたんぱく質が前立腺がん組織で過剰発現されていることを示唆した。以上の結果は、前立腺がん組織由来のペプチドに反応する自己抗体がスクリーニングに利用できる可能性を示した。著者たちは、新たなマーカーは、PSA値が10ng/mL以下の人においては有用ではないか、と述べている。
低リスク前立腺がんへの高線量放射線治療、8割の患者で5年間再発なし、米国の研究2005年9月27日 /Medwave
限局性前立腺がんには、一般に放射線の外部照射が行われる。が、治療後、PSA値が上昇(生化学的再発)し、その後、臨床的な再発をみる患者が存在する。米ハーバード大学医学部のAnthony L. Zietman氏らは、フォトン、プロトン・ビームの3次元原体照射(3D-CRT)を行えば、高線量でも安全性に大きな変化はなく、生化学的再発を49%減らせることを明らかにした。詳細はJournal of American Medical Association(JAMA)誌2005年9月14日号に報告された。これまで、低リスクの早期前立腺がん患者を対象に、高線量照射の利益とリスクを評価した無作為割付試験はなかった。著者たちは、病巣に放射線をより正確に集中させる3D-CRTと、病巣により限定した照射が可能なプロトン・ビームを利用すれば、低リスク患者に対する高線量照射を安全に行うことができ、アウトカムが向上すると考えた。対象となったのは、限局性(T1bからT2b)の前立腺がんで、PSA値が15ng/mL未満(中央値は6.3ng/mL)の392人(平均年齢67歳)。3次元CTを用いて治療計画を作成した。通常線量の70.2Gy(197人)または高線量の79.2Gy(195人)に割り付けた。プロトン・ビームの3D-CRT(19.8Gyまたは28.8Gy)を行った後で、両群にフォトン・ビーム(X線)の3D-CRT(50.4Gy)を実施した。� �療期間は通常線量群が8週間、高線量群が9週間となった。追跡期間の中央値は5.5年(1.2-8.2年)。PSA値と副作用をモニターした。PSAの最低値が1.0ng/mL以下となったのは、通常線量群の81.0%、高線量群は86.6%で、有意差なし。0.5ng/mL以下はそれぞれ44.7%と59.8%で、有意な差が見られた(P=0.003)。治療後5年以内にPSA値の上昇が見られなかった患者の割合は、通常線量群61.4%(95%信頼区間54.6-68.3%)、高線量群80.4%(74.7-86.1%)(P<0.001)。高線量照射により治療失敗のリスクは49%減少した。高線量照射の利益は、リスクがより低いグループ(PSA値が<10ng/mL、ステージ≦T2aまたはグリーソン・スコア≦6、227人)とそれ以外の患者の両方に見られた。リスク減少はそれぞれ51%(P<0.001)と44%(P=0.03)だった。生存率には有意差はなかった (P=0.80)。通常線量群の10人が死亡、うち2人が前立腺がん関連死、高線量群では8人が死亡、前立腺がん関連死は0人だった。副作用については、まず、Radiation Therapy Oncology Group(ROTG)の放射線反応スコアでグレード3以上の深刻な症状が尿生殖器または消化器(直腸)に現れた患者の割合を比較した。急性反応は、通常線量群で1%、高線量群で2%、遅発性反応は、通常線量群で2%、高線量群で1%と、いずれも有意差なし。差が認められたのは、グレード2の消化器症状のみ。急性反応は通常群41%、高線量群で57%(P=0.004)、遅発反応は通常群8%、高線量群17%(P=0.005)だった。得られた結果は、限局性の低リスク前立腺がん患者に高線量3D-CRTを適用すると再発リスクが下がることを示した。安全性の問題は、グレード2の消化器症状の発生率がわずかに上昇するのみに留まった。著者たちは、高線量3D-CRTの早期患者への適用が正当であることを示すエピデンスを追加した、と述べている。
前立腺癌の初期検出に新たな検査法[2005年9月1日 (VOL.38 NO.35) ]
ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)のRobert H. Getzenberg博士は「臨床検査において,初期前立腺癌抗原(EPCA)と呼ばれる前立腺癌と関連する新たな血液蛋白質マーカーに注目することにより,初期状態での前立腺癌の検出に成功したことが示された。同時に,EPCAは前立腺特異抗原(PSA)検査で見られる偽陽性結果の問題をうまく避けることができた」とCancer Research(2005; 65: 4097-4100)に発表した。今回の研究では,前立腺癌患者12例,膀胱癌患者 6 例,大腸癌患者 2 例,腎臓癌患者 1 例,脊髄損傷患者 7 例,非癌性前立腺炎患者 2 例と健常者16例を登録した。EPCA値は,前立腺癌患者12例中11例(92%)で高かったが,健常群では全例で低かった。また膀胱癌患者の 2 例でEPCA値が上昇していたが,その他の患者群でEPCA値の上昇は認められなかった。同博士は「この新しい血液検査法をPSAスクリーニングと組み合わせれば,不要な生検や未検出の前立腺腫瘍の両方の抑制に役立つだろう」と述べた。
前立腺癌に対する放射線療法 直腸癌発症リスク高い[2005年9月1日 (VOL.38 NO.35)]
ミネソタ大学癌センター(ミネソタ州ミネアポリス)のNancy Baxter博士らは「前立腺癌で放射線療法を受けた患者は,外科手術を受けた患者と比べて,直腸癌発症リスクが70%高い」とGastroenterology(2005;128: 819-824)に発表した。
結腸癌発症リスクは認めず
筆頭研究者のBaxter博士は「前立腺照射を受けた患者には,治療後 5 年目から直腸癌の積極的なモニターを開始すべき」と指摘。「前立腺照射に関連した直腸癌のリスクが定量化されたのはこれが初めてで,これらの知見は他の骨盤内癌を放射線治療した患者でも潜在的重要性を持つものかもしれない」と述べている。前立腺癌の放射線療法が膀胱癌や肉腫の発症率上昇と関連することは以前から知られていたが,今回の研究では,前立腺癌の放射線療法と結腸癌発症率の上昇との関連は認められなかった。同博士は「今回の研究知見は,前立腺癌の治療法を変更すべきであることを示唆するものではないが,われわれは前立腺癌患者に対する個々の治療法を考える場合,または患者サーベイランスを実施する場合には,医師と患者の間で直腸癌発症の可能性について話し合うことを推奨する」としている。� ��回の研究結果は,1995年以前に前立腺癌の治療を受けた患者のデータに基づいたもので,それ以降の技術の進歩した放射線照射を受けた患者で直腸癌リスクがこのように上昇するという蓋然性は変化したと考えられる。しかし,同博士らは最近の放射線照射技術は進歩したとしても,直腸の一部ではまだ高線量の放射線照射を受けている可能性があると見ている。したがって,直腸癌リスクはいまだに実質的な重要性を持つもので,リスクがないことが立証されるまでは,前立腺癌で放射線治療を受ける患者では,治療後 5 年目から直腸癌のモニターを開始する必要がある。
SEER登録を利用
Baxter博士は「現在実施されている原体照射や強度変調照射といったより洗練されたアプローチを行ったとしても,前立腺照射中に直腸の一部(特に直腸前壁)も照射を受けるであろう。この部位の直腸が受ける線量は前立腺に送達される線量と実質的な差がなく,他の部位は中等度の放射線量を受けるであろう」と指摘。しかし「照射野を小さくすることにより,照射野に入る高リスク直腸領域の体積を小さくできるため,二次的直腸癌の発症率は抑制されると考えられる」と付け加えている。この住民対象研究は,1973~94年のサーベイランス・疫学・最終結果(SEER)登録を用い,直腸癌と結腸癌の発症に対する放射線の影響を評価した。対象は18~80歳の 男性患者で,全例とも結腸直腸癌の既往歴はなく,外科手術または放射線のいずれかによる治療を受け,5 年以上生存したものとした。合計 3 万552例が放射線療法を受けていた。なお,登録患者のうち 5 万5,263例は外科手術のみを受けていた。同博士らは,照射に関して(1)間違いなく照射した部位(直腸)(2)照射した可能性のある部位(直腸S状結腸,S状結腸と盲腸)(3)非照射部位(残りの結腸)-に 3 分類し,発癌に対する放射線の影響を評価した。時間経過に伴う放射線照射と結腸癌直腸との関係の評価には,比例ハザードモデルを用いた。1,437例が結腸直腸癌を発症し,その内訳は,(1)が267例,(2)が686例,(3)が484例であった。同博士らは「照射部位では,時間経過に伴って放射線照射が独立して発癌と関連したが,結腸の残りの部位では時間経過に伴う放射線照射と発癌との関連は見られなかった」と述べている。このことから,放射線照射の影響は直接照射を受けた組織に特異的であることがわかった。 この研究は,顕微鏡的に疾患が確認された患者が多かったこと,5 年以上生存した患者を対象としたこと(照射の 1 か月後に直腸癌を発症した患者は除外),さらにフォローアップ期間の平均値の点からしても,前立腺癌における放射線照射の 2 次的結果についての以前の解析と比べて大きく改善されているという。
照射後のモニターが重要
ワシントン大学(ワシントン州シアトル)のWilliam M. Grady,Ken Russelの両氏は同誌の付随論評(2005; 128: 1114-1117)で,「Baxter博士らの所見は,放射線照射に誘導される癌に対するわれわれの理解に関してだけでなく,前立腺照射を受けた患者に対する管理法に関しても実質的な重要性を持つものだ。前立腺癌の治療に成功する患者が増えていることから,前立腺癌治療による長期合併症の予防が主要な医療問題になるであろうことが予測される」と述べている。Grady氏らは,電離放射線が直腸癌の原因となることの生物学的妥当性について論じている。「Baxter博士らの結果は,前立腺癌患者の治療には放射線療法より外科手術を用いるべきであることを示唆するものだろうか」と問いかけ,同博士らの意見に同意し,絶対リスクの変化(10年間のフォローアップ期間中,外科手術におけるリスクが1,000例中5.1例であったのに対して放射線療法のリ� ��クは1,000例中10例であった)を考慮に入れることが重要だと答えている。
さらに,「適切に選択された患者集団における放射線療法の高い有用性や直腸癌の絶対リスクが低いことを考慮すると,放射線療法が前立腺癌の管理において重要な役割を果たすことは明らかだ。したがって,放射線療法を
実施した患者に対していかに初期状態で直腸癌を検出するかが,密接につながりのある臨床上の問題として浮かび上がってくる」と述べている。 Gardy氏らは,65歳以上の第 1 度親族に結腸腺腫や結腸癌の家族歴がある患者に対しては現行のガイドラインを用いて管理するよう推奨している。
前立腺癌研究の現状 根治的切除術が死亡リスク抑制 [2005年8月25日 (VOL.38 NO.34) ]
早期前立腺癌の管理法比較
ウプサラ大学病院(スウェーデン・ウプサラ)泌尿器科のAnna Bill-Axelson博士らは,早期前立腺癌の管理において根治的前立腺切除術と監視を怠らない待機的フォローアップとを比較する長期ランダム化比較試験の結果から「根治的前立腺切除術により疾患特異的死亡率,包括的死亡率,転移リスクと局所進行が抑制された」とNew England Journal ofMedicine(2005; 352: 1977-1984)に発表した。
遠隔転移の累積発生率にも差
Bill-Axelson博士らは「根治的前立腺切除術における10年後の死亡リスクの絶対的減少は小さいが,転移リスクや腫瘍の局所進行のリスクは実質的に抑制される」と述べている。この試験では,695例の早期前立腺癌患者(平均年齢64.7歳)を外科 手術群と注意深いフォローアップ(WW)群にランダム化割り付けした。フォローアップ期間の中央値は8.2年,外科手術群の死亡数は83例,WW群では106例だった(P=0.04)。前立腺癌が原因で死亡したのは,外科手術群では30例(8.6%),WW群では50例(14.4%)だった。前立腺癌による死亡の累積発生率の差は,5 年後の2.0%ポイントから10年後には5.3%ポイントへと増加し,相対リスクは0.56だった。遠隔転移の累積発生率における差は,5 年後の1.7%ポイントから10年後の10.2%ポイントへと増加した〔手術群の相対リスク(RR)は0.60〕。同博士らは「局所進行の累積発生率における差は,5 年後の19.1%ポイントから10年後の25.1%ポイントへと増加した(手術群のRRは0.33)。局所進行は,排尿の問題や痛みと不安を引き起こす可能性がある」としている。
65歳未満で死亡率低い
Bill-Axelson博士らは「根治的前立腺切除術による疾患特異的死亡率の減少は65歳未満の患者で最も大きく,抑制はこの年齢範囲に限られていた」と述べているが,この所見は「少数の症例に基づいたものであるため,この結果から診療方針を変更すべきであるというわけではない」と注記している。さらに,WW群ではホルモン療法や緩和的放射線療法の必要性が上昇したが,両療法とも副作用と関連が見られた。同博士らは,この所見から「臨床意思決定や患者のカウンセリングは困難な問題として残ることが示唆される」と結論付けてい� �。今回の研究責任者であるJan-Erik Johansson博士は,以下に述べるJAMA論文中で考察されている2004年試験の筆頭研究者である。
~低グレード前立腺癌患者~通常の管理でも20年後の死亡リスク低い
コネティカット大学保健センター(コネティカット州ファーミントン)泌尿器科のPeter C. Albertsen博士らは,臨床的に局在化した前立腺癌に対して通常の管理を行った症例における20年後のアウトカムを調べた集団に基づく後ろ向きコホート研究から,最初の15年間のフォローアップ期間中では前立腺癌死亡率は1,000人年当たり33,15年間のフォローアップ期間後では同18であることを明らかにし,JAMA(2005; 293: 2095-2101)に発表した。
スコア 8 ~10で高い死亡率
Albertsen博士らは,低グレード前立腺癌患者は20年間のフォローアップ期間中,前立腺癌による死亡リスクが最も少ないことを明らかにした。Gleasonスコアが 2 ~ 4 の患者では,死亡率が1,000人年当たり 6 であった。Gleasonスコア分類システムでは,形態学的パターンに従い前立腺癌を高分化度の 1 から低分化度の 5 までグレード分類をする。同博士らは「前立腺癌による年間死亡率は,診断後15年間は安定しているようで,このことから低グレード前立腺癌に対する積極的治療は支持されない」と結論付けている。しかし,Gleasonスコアが 7 の患者と 8 ~10の患者では前立腺癌による死亡率が高いことが明らかにされ,中グレード疾患(Gleasonスコア 5 と 6 )の患者は,20年後の前立腺癌進行の累積リスクが中等度であることが明らかにされた。今回の研究の目的は,この疾患の自然経過を理解することであった。同博士らは,いくつかの患者サブグループを除外した後に,前立腺癌と診断された767例の患者記録のレビューを行った。外科手術を受けた患者,放射線治療を受けた患者,密封小線源療法を受けた患者,転移性癌の患者,同時発生癌が認められる患者,または診断後 6 か月以内に死亡した患者は除外した。
長期生存に年齢とスコアが関与
この試験で対象とした患者は,前立腺特異抗原(PSA)検査の臨床適応以前に前立腺癌と診断されたため,PSAレベルは調べなかった。患者の87%で20年間以上のフォローアップを行い,観察期間の中央値は24年であった。長期生存に影響を与えた 2 つの主因子は,診断時の年齢とGleasonスコアだった。一方,エレブル大学病院(スウェーデン・エレブル)泌尿器科のJan-Erik Johansson博士らがスウェーデンで局在前立腺癌患者223例のコホートを対象に行った研究によると,20年アウトカムは診断後15年以上生存した49例では前立腺癌死亡率が3 倍に上昇するというパターンに追随したことが明らかにされた。詳細はJAMA(2004; 291: 2713-2719)に発表されている。
低分化度癌には根治的切除術
Albertsen博士らの研究ではGleasonスコア分類システムを用いたが,Johansson博士らは世界保健機関(WHO)分類システムに従った吸引 生検分類を使用した。さらに,Albertsen博士らがその研究のなかで使用した死亡原因の同定法は,Johansson博士らのそれと異なっていた。Albertsen博士らは「15年目の所見と20年目の所見との差は,いずれかの研究に少数の患者の分類ミスがあることで説明できるだろう」と述べている。同博士らは,以前,15年目のデータをJAMA(1998; 280:975-980)に発表している。今回の研究で同博士らは,自身の研究とJohansson博士らのそれは同じ結論に至るとしている。すなわち,高分化度の癌はほとんど治療を必要としない。平均余命14年以上の中分化度癌(Gleasonスコア 5 または 6 とWHOグレード 2 )の患者の治療法決定は困難だ。低分化度癌をアンドロゲン抑制療法のみで治療すると通常は死に至るが,これらの患者に根治的前立腺切除術を行えば,疾患特異的死亡率は半減すると考えられる。しかし,外科手術後にPSA再上昇が認められる患者では,疾患の進行が認められることが多い。
自然経過は依然なぞ
ノースウェスタン大学(シカゴ)のP. H. Gann,Misop Hanの両博士によるJAMAの付随論評(2005; 293: 2149-2151)では,Albertsen博士らやJohansson博士らの研究が発表されたにもかかわらず,「現在,局在前立腺癌と診断される症例の自然経過は,依然としてなぞのままだ」と結論付けている。Gann博士らは,現在,前立腺癌と診断される患者は複数の原因からこれら両研究で評価された患者とは正確には一致しないと指摘している。例えば,過去にはPSA検査がまだ実施されていなかったため,多くの前立腺癌が前立腺肥大(BPH)の治療中に偶然に検出された。もう 1 つの例として,経尿道的前立腺切除術(TURP)の実施頻度は以前より現在のほうが低い。Albertsen博士らのデータからGann博士らが導いた 1 つの結論は,この研究により「臨床的に局在した患者に関するアウトカムの予測では,Gleasonスコアの重要性が強化される」というものだ。しかし,来るべき20年間に新たな分子技術や通常生検によるさらに詳細な解析(Haese A, et al. Cancer 2003; 97:969-978)の適用が拡大するとともに,前立腺癌モデルはさらに大きく改善されるだろう,とGann博士らは述べている。
進行抑制に可能性
ハーバード大学公衆衛生学部(ボストン)栄養学のEdward L. Giovannucci博士らによる新しい研究では,「規則正しい精力的な運動によって前立腺癌の進行を遅延できる可能性があり,前立腺癌死亡率を抑制するうえでこれが推奨されるかもしれない」と結論付けている。詳細はArchives of Internal Medicine(2005; 165: 1005-1010)に発表された。
65歳以上の男性でリスク低い
Giovannucci博士らは,4 万7,620例の健常有職男性を登録した前向きコホート研究の一部である14年間の追跡研究で,65歳以上の男性は進行性前立腺癌と致死性前立腺癌の最高カテゴリーに入るリスクが低い(それぞれ多変量リスク比が0.33と0.26)ことがわかった。65歳以上の男性では,週に約 3 時間以上の精力的運動を行った場合,進行性前立腺癌が約70%減少した。これはおよそ週当たり30代謝当量(MET)・時に相当する。同博士らによると,1 MET・時は 1 時間安静にして座っている代謝当量である。一方,若年男性では,こうした関連は認められなかった。さらに,前立腺癌症例で運動レベルの高い男性は低分化度癌(Gleasonスコア 7 以上)と診断されることが少なかった。また,前立腺癌の新たな症例2,892例(うち482例は進行性癌,280例は致死性癌)について調べた結果,全群,活発な運動群と運動が少ない群とも進行性癌と全前立腺癌に関連は認められなかった。同博士らは「この所見はどの時間についても一貫したもので,偏りや交絡因子により引き起こされたものとは思われず,前立腺癌進行に関するホルモン仮説と一致する」と述べている。運動が前立腺癌に対して保護的に作用する機序に関しては,「依然として不明だが,関連ホルモンには,インスリン様成長因子(IGF)-1,インスリン,レプチン,性ホルモン結合グロブリン,IGF結合蛋白質 1,テストステロンなどが含まれることが考えられる」としている。
前立腺癌手術後の再発による死亡[2005年8月18日 (VOL.38 NO.33)]
高リスク患者を特定するツール開発
ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)泌尿器科学のStephen J. Freedland講師らは,前立腺癌手術後の再発による死亡と関連する 3 つの危険因子を同定し,高リスク患者を特定するための簡易レファレンスツールを開発,JAMA(2005; 294: 433-439)に発表した。
治療の適否判断に活用
この新しいツールは,血液検査結果,外科的病理所見,術後経過期間を組み合わせて評価する一組の表で,術後に癌が再発した男性のうち死亡リスクが高く,さらに治療を行うべき患者を特定するのに役立つ。同ツールで用いられる危険因子は以下の 3 つである。
(1)前立腺特異抗原(PSA)の血中濃度が術後に 2 倍になるまでの期間(月単位)。この期間が短いほどリスクは上昇する
(2)手術からPSA検査により診断される再発までの期間(年単位)。これも,期間が短いほどリスクは高くなる
(3)前立腺癌の進行度の指標で,顕微鏡下で判定されるGleasonスコア( 2 ~10)。数値が大きいほど腫瘍の進行度は高い
Freedland講師は「われわれが考案したツールを活用すれば,さらに治療をすべきか,それとも比較的低リスクであるため注意深いフォローアップでよいかを早期に判断できる」と述べている。さらに,低リスクと判定された患者が再発後に死亡するまでの期間は16年以上であることが多く,きわめて長いことも明らかになった。スクリーニングを通じて早期発見された前立腺癌は治療可能で,根治的前立腺摘除術により治癒に至ることが多いが,術後患者の 3 分の 1 では癌の再発を示す徴候が現れる。
379例の再発患者を調査
Freedland講師らは危険因子を同定するため,1982~2000年にジョンズホプキンス大学で根治的前立腺摘除術を受け,その後,PSA検査により再発が確認された379例を調査した。再発後には 3 か月以上の間隔で少なくとも 2 回以上のPSA検査が実施された。その結果,上述の 3 つの危険因子はいずれも,前立腺癌再発から死亡までの期間の予測に重要であることがわかった。PSAが 2 倍になるまでの期間は 3 か月未満,3 か月以上 9 か月未満,9 か月以上15か月未満,15か月以上の 4 つに,手術から生化学的再発までの期間は 3 年以下,3 年超の 2 つに,Gleasonスコアについては 2 ~ 7,8 ~10の 2 つに,それぞれ分類した。例えば,PSAが 2 倍になるまでの期間が 3 か月未満であった23例の平均生存年数は 6 年で,PSAが 2 倍になるまでの期間が 3 か月未満,術後の生化学的再発までの期間が 3 年以下,Gleasonスコアが 8 ~10であった15例の平均生存年数は3 年であった。しかし,PSAが 2 倍になるまでの期間が15か月以上,術後の生化学的再発までの期間が 3 年超であった82例の生存率は,調査時点で100%であったという。そこで,これらの 3 つの危険因子を組み合わせることで,同講師らは生化学的再発後 5 年,10年,15年の時点での前立腺癌による死亡率を予測することができる表を作成した。同講師は「患者や医師が前立腺癌手術後の再発による死亡リスクを評価し,さらに治療が必要かどうかを判断するうえでこ
れらの表が役立つことを期待する」と述べている。
~前立腺癌に対する密封小線源療法~ [2005年8月18日 (VOL.38 NO.33)]
1年後のQOLを大幅に改善
フォックスチェイス癌センター(ペンシルベニア州フィラデルフィア)放射線腫瘍学のSteven J.Feigenberg博士らは,早期前立腺癌に対する密封小線源療法後 1 年間の健康関連QOL(HRQOL)を評価する多施設前向き試験を実施。12か月後の勃起能力と尿禁制を含むHRQOLはきわめて高かったとする知見をInternational Journal ofRadiation Oncology*Biology*Physics(2005; 62: 956-964)に発表した。
" 1956年英国の医師は、肥満の治療法を発見する"
副作用評価に有用な知見
密封小線源療法は放射線を発生する極小ビーズを前立腺内に直接埋め込んで癌を治療する内部照射療法の 一種。Feigenberg博士らは,早期前立腺癌に対する初期治療として低線量の密封小線源療法を単独施行された24施設98例の男性を登録し,治療前と治療後 3,6,9,12か月後に 3 種類のQOL質問票に回答してもらい,同療法がHRQOLに与える影響を検討した。特に,性機能面と排尿機能面での副作用を重視した。補助手段の使用例も含めて治療前に勃起可能であった男性(全体の73%)のうち,78%が12か月後に勃起能力を回復した。しかし,全体では約50%で性欲減退,性行為の回数と満足感の減少,疲労などなんらかの性機能障害が認められた。12か月後の尿失禁有病率は 1 %と低かったが,排尿困難は多くの患者で持続した。一般的に尿失禁は治療開始直後に増加したが,12か月後にはほぼ解消されていた。筆頭研究者のFeigenberg博士は「今回の研究は,前立腺癌に対する密封小線源療法がHRQOLに与える影響を検討した初の多施設前向き試験で,今回得られた知見は放射線腫瘍医が密封小線源療法後に起こりうる副作用によりよく対処するのに役立つであろう」と述べている。
前立腺癌の進行と死亡率が低下2005年8月4日号 / Vol.38 NO.31
高齢者では運動が有効
ハーバード大学公衆衛生学部(ボストン)のEdward L. Giovannucci教授が行った研究により,65歳以上の男性高齢者は活発な運動を行うことで,運動しない場合に比べて前立腺癌の進行が遅くなり,同疾患による死亡率も低下することがわかった。詳細はArchives of Internal Medicine(2005; 165:1005-1010)に発表された。
65歳未満では効果認めず
Giovannucci教授らは,4 万7,620例の米国人男性を1986年 2 月~2000年 1 月にフォローアップした医療従事者フォローアップ研究のデータから,前立腺癌の発生例,進行例,高グレード例,致死的症例の数を検討した。 同教授らは今回の研究で,被験男性に 1 週間にウオーキング,ハイキング,サイクリング,ジョギング,ランニング,プールの往復,ボートこぎ,徒手体操,テニス,スカッシュ,ラケットボールを行い,平均時間を報告するよう求めた。
14年間のフォローアップ期間中,新たに前立腺癌と診断されたのは2,892例で,うち482例が進行癌であった。同教授らによると,65歳以上の男性は,毎週 3 時間以上の活発な運動を行った場合,そうでない人に比べて高グレード,進行,致死性の前立腺癌の発生率が70%低かった。しかし,この活発な運動との関連は65歳未満の男性には見られなかった。同教授は「機序は不明だが,ほかにも運動の効果が多数報告されていることを考えると,活発な運動が前立腺癌の進行を遅らせ,死亡率を減らすのに役立つ可能性がある」と述べている。
前立腺特異的膜抗原の結晶構造撮影に成功 標的薬剤開発の弾みに2005年7月21日号 / Vol.38 NO.25,26
カリフォルニア工科大学(カリフォルニア州パサディナ)ハワードヒューズ医学研究所(HHMI)生物学部門のPamela Bjorkman教授らは,前立腺癌のマーカーとして注目を集めている前立腺特異的膜抗原(PSMA)の結晶構造の撮影に初めて成功し,詳細をProceedings of the National Academyof Sciences, USA(PNAS,2005; 102: 5981-5986)に発表した。PSMAは前立腺癌細胞だけでなく,ニューロンなどの脳細胞でも発現しており,今回の知見は前立腺癌だけでなくアルツハイマー病や脳卒中など幅広い神経疾患に対する新治療法開発の可能性を秘めている。
構造理解は治療法開発の第一歩
前立腺癌細胞の表面にはPSMAが高度に発現するが,その理由や役割は完全には解明されていない。現在,PSMAを癌の診断と治療に活用しようとする研究が盛んに進められている。PSMAはグルタミン酸カルボキシペプチダーゼII活性を有するが,この酵素活性を有する分子はニューロンや脳細胞の表面にも存在しており,脳内でN- アセチルアスパルチルグルタミン酸(NAAG)ペプチドの活性を調節することにより,興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸塩の機能を制御している。この機序は脳が正常に機能する際の鍵となっており,統合失調症,筋萎縮性側索硬化症(ALS),脳卒中などの神経疾患では,この部位に機能不全や異常が存在すると考えられている。
今回,Bjorkman教授らはX線結晶解析と呼ばれる画像技術を駆使してPSMAを撮影。PSMAが他の蛋白質や低分子と結合し,これらを分割したり細胞内に送達する働きをしていることを明らかにした。この知見は,前立腺癌細胞表面のPSMAを正確に標的とすることを可能とし,副作用の少ない新薬開発に必要な青写真を提供するものである。
筆頭研究者である同大学のMindy I. Davis博士は「脳内のPSMAの機能を理解し,前立腺癌治療薬や造影剤を開発するには,まず分子の構造を理解しなければならない」と述べている。
すべての前立腺癌で発現
コーネル大学Weill医学部(ニューヨーク州イサカ)泌尿器腫瘍学のNeil Bander教授は,今回の研究には参加していないが,PSMAの結晶構造が解明されるのを待ち続けてきた研究者の 1 人で,「結晶構造の解明は前立腺癌治療の設計にきわめて有用で,神経科学の分野においてはなおさら有用性が高いであろう」と評価している。同教授は,前立腺癌細胞を包むPSMA分子の細胞外領域に結合する初の抗体を作製した研究者で,この抗体により進行前立腺癌患者の転移癌細胞に放射性物質を正確に送達できることを早期臨床試験で示している。また,同抗体を化学療法薬と結合させ,前立腺癌細胞のみを破壊しうる合剤の開発も行っている。同教授は「PSMAは前立腺癌治療の標的として完ぺきな分子である。これまでに発見された前立腺癌特異的な細胞表面分子のなかでは最も解明が進んでいるもので,すべての前立腺癌表面に存在している。ちなみに,乳癌治療でトラスツズマブの標的とされるHer2/Neu受容体は乳癌細胞の25%に� ��か発現していない」と述べている。Davis博士によると,Bander教授らの抗体は大きすぎて血液脳関門を通過できないが,PSMAと結合し,同関門を通過できる小さな分子を開発すれば,今回の知見を神経障害の治療にも活用できるという。
チョウのような形のPSMA分子
今回発表された画像では,細胞表面に突出しているPSMA分子はチョウのような形をしている。Davis博士らは,高性能コンピュータ上で化学反応を模倣し,PSMAと神経ペプチドや結合相手となる他の 3 つの分子との結合を実演し,結合部位を特定してみせた。今回の画像では,Bander 教授らの抗体が結合する部位も確認できる。今回の知見は,将来の治療に役立つと思われる一連のアプローチを示唆している。例えば,PSMAと結合して細胞内に取り込まれる新薬や,PSMA分子により選択的に分割されることで活性を発揮する薬剤の開発が考えられる。また,PSMA内に送り込むことでその機能を停止できる微小分子を開発するなど,神経疾患治療にも応用できる。Davis博士は「今回の知見を有効に活用する案は数多くあり,多くの企業がPSMAに着目している。現在,画像化の方法や治療薬の開発がさまざまな視点から検討されている」と述べている。
前立腺がんスクリーニングにおけるPSA値、カットオフ値設定は困難 米国人男性を対象とする研究 2005年7月11日 /Medwave
米Texas大学健康科学センターのIan M. Thompson氏らは、健康な男性8575人の前立腺特異抗原(PSA)値を測定、7年間追跡して、受診者動作特性曲線(ROC曲線)を作成した。その結果、曲線下面積は0.678で、前立腺がんリスクはPSA値の上昇に伴って比例に近い形で連続的に増すため、感度と特異性を高く保てるカットオフ値は設定できないことが示された。詳細は、Journal of American Medical Association(JAMA)誌2005年7月6日号に報告された。
米国では、51歳以上の男性の4分の3がPSA検査の経験を持ち、半数以上が定期的に検査を受けている。が、PSAを用いたスクリーニングで前立腺がんによる死亡率を減らせるという報告は1件もない。現在は、PSA値が4.0ng/mLを超えると生検を勧められる。
著者たちは、1993~2003年に、全米221医療機関で、フィナステリドの前立腺がん予防効果を調べる大規模試験を行った。今回は、この試験で偽薬投与群に割り付けられた55歳以上の男性8575人のデータを基に、ROC曲線を作成した。ベースライン時には全員、PSA値は3.0ng/mL以下、直腸診(DRE)の結果は正常。PSA検査とDREは毎年実施。PSA値が4.0ng/mLを超えた、またはDRE で異常と判断された時点で生検を実施、さらに、7年間の追跡終了時には全員に生検を勧めた。5587人(65.2%)が少なくとも1回生検を受け、1225人が前立腺がんと診断された。1213人についてGleasonグレードが記録されていた。うち250人(20.6%)がグレード7以上、57人(4.7%)がグレード8以上だった。
PSA値を指標とする診断の精度を示すROC曲線は、すべての前立腺がん、Gleasonグレード7以上の癌(250人)、Gleasonグレード8以上の癌(57人)の診断という観点から3通り作成した。それぞれ、ROC曲線下面積(AUC)(これが1に近いほど優れた検査法といえる)は、0.678(95%信頼区間0.666-0.689)、0.782(0.748-0.816)、0.827(0.761-0.893)となった。
全前立腺がんの検出を目的にした場合、PSAのカットオフ値を1.1、2.1、3.1、4.1ng/mLに設定� �ると、感度は、それぞれ83.4%、52.6%、32.2%、20.5%、特異性は38.9%、72.5%、86.7%、93.8%。したがって、擬陽性率は61.1%、27.5%、13.3%、6.2%となる。カットオフ値が4.1ng/mLなら擬陽性率は6.2%だが感度は20.5%、検出率を上げるため、カットオフ値を1.1ng/mL にすれば感度は83.4%だが擬陽性率は61.1%になる。これは、61.1%の人が、実際には癌ではないのに生検を勧められることを意味する。先頃、米国で推奨された2.6ng/mL では、感度は40.5%、擬陽性率18.9%で、結局、感度と特異性の両方に満足のいくカットオフ値は見いだせなかった。
Gleasonスコアが高い、すなわち病理学的悪性度の高い前立腺がんの患者を対象にすると、感度と特異性は上昇した。Gleasonスコア8以上の場合、感度は、カットオフ値4.1ng/mLで50.9%、カットオフ値1.6ng/mLで89.5%、特異性もそれぞれ89.1%と53.5%になった。
この研究は、前立腺がんの1次スクリーニングにおけるPSA検査の動作特性評価としては最大規模のものとなった。前立腺癌には、悪性度が高いのにPSA値が低いために見逃されるケースが存在する。しかし、カットオフ値を下げると、生検の実施頻度は上昇、それに伴って、より悪性度の低い、実際には経過を見るだけでよいがんの過剰検出と過剰治療が増える可能 性がある。
現在、米国人男性が生涯にわたって前立腺がんと診断されるリスクは17.3%、前立腺がんによる死のリスクは3%だ。著者たちは、医療従事者と患者の両方が、PSA値には明らかなカットオフ値が設定できないことを認識し、感度と特異性の数値を知った上で、この病気の特性を考慮して、生検を行うべきかどうかを判断する必要があると考えている。
今回の結果が、日本人男性にそのまま当てはまるわけではない。しかし、日本人を対象としたROC曲線もまた、曲線下面積は0.7程度で、カットオフ値が設定しにくいことは確かだ。新たなマーカーの同定やそれらを検出する検査の開発も進んでおり、複数の指標を組み合わせれば、不要な生検を減らすことは可能だろう。
前立腺癌にタモキシフェン併用療法2005年7月7日号 / Vol.38 NO.27
ビカルタミドによる女性化乳房などの副作用低減
フェデリコ II世大学(ナポリ)のGiuseppe Di Lorenzo博士らは,ビカルタミドによる前立腺癌治療の副作用である女性化乳房や乳頭痛の緩和には,放射線療法よりもタモキシフェン投与が有効であるとLancet Oncology(2005; 6: 295-300)に発表した。
放射線療法よりも有効
ビカルタミドは早期前立腺癌の手術や放射線療法に対するアジュバント療法として,わが国をはじめ,米国や欧州の数か国で承認されているが,副作用として女性化乳房や乳頭痛が起こりやすい。現行ではこうした副作用の治療に低線量の放射線療法を行うのが一般的だ。そこで,Di Lorenzo博士らは副作用のよりよい予防法を検討するため,イタリアの 5 施設でビカルタミドによる前立腺癌治療を受けた患者151例を,(1)ビカルタミド150mg/日単独群(51例)(2)ビカルタミド150mg/日+タモキシフェン10mgの24週投与群(50例)(3)ビカルタミド150mg/日+治療開始時の放射線療法 1 回群(50例)-の 3 群にランダム化割り付けし,平均25週間フォローアップした。その結果,試験終了時に(1)群では35例(69%)で女性化乳房が認められ,29例(57%)が乳頭痛を訴えた。(3)群では,女性化乳房は17例(34%),乳頭痛を15例(30%)が訴えた。これに対し(2)群では女性化乳房 4 例( 8 %),乳頭痛が 3 例( 6 %)であった。同博士によると,(1)群で女性化乳房を呈した患者35例を,さらにタモキシフェン投与もしくは放射線療法にランダム化割り付けし治療したところ,放射線療法群に比べてタモキシフェン投与群で女性化乳房と乳頭痛は有意に減少した。
進行前立腺癌にもホルモン療法や手術は有効2005年6月23,30日号 / Vol.38 NO.25,26
前立腺皮膜外浸潤を伴う進行前立腺癌は一般的に予後不良とされるが,カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA,ロサンゼルス)放射線腫瘍学のMiljenko V. Pilepich博士らは,Gleason分類の高い患者のほうがアジュバントホルモン療法のアウトカムは良好であったとする意外な結果をInternational Journal of Radiation Oncology, Biology and Physics(2005; 61: 1285-1290)に,一方,メイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)泌尿器科学のHorst Zincke教授らは,進行前立腺癌でも手術を主要治療にすべきとする知見をBJU International(2005; 95: 751-756)に,それぞれ発表した。
Gleason分類 7 以上で特に有効
Pilepich博士らは,放射線療法腫瘍学グループ(RTOG)の助成を受け,病期T3(cT3,前立腺皮膜外浸潤)すなわち所属リンパ節浸潤を伴う前立腺癌患者を対象に,最終的放射線療法のアジュバントとしての酢酸ゴセレリンによる抗アンドロゲン療法の有効性を検討する第 III 相試験を実施。1987~92年に977例を放射線療法開始から 1 週間以内に電話で登録し,(1)放射線療法+ゴセレリン投与群(488例)(2)放射線療法単独群(489例)-にランダム化割り付けした。両群とも病理学者がGleason分類により高( 2 ~ 5),中等度( 6 ~ 7 ),低( 8 ~10)分化型に分類した。(1)群では放射線療法の最終週にゴセレリン投与(前腹壁から3.6mgを皮下投与)を開始し,無期限に継続。(2)群はフォローアップのうえ癌の再発時に投与した。試験開始後,基準に合致しない32例を除外し,(1)群477例,(2)群468例を解析対象とした。アジュバント療法を施行した(1)群では全体で統計学的に有意な生存率の改善が認められた。10年後の絶対生存率と局所再発率は,(2)群がそれぞれ39%と38%であったのに対し,(1)群は49%と 23%であった。また,遠隔転移と前立腺癌による死亡は,(2)群がそれぞれ39%と22%であったのに対し,(1)群は24%と16%であった。さらに,Gleason分類別の解析では,分類 7 以上の患者で生存率の有意な改善が見られたが,2 ~ 6の患者群では見られなかった。
同博士は「今回の結果は,Gleason分類 2 ~ 6 の患者には,費用と副作用から見てゴセレリンによる抗アンドロゲン療法を推奨できないことを意味しており,これらの患者の治療に関し臨床的に重要な問題を提起するものであるが,RTOGによる別の試験では低Gleason分類の局所進行癌男性患者で抗アンドロゲン療法の有効性が確認されている」と述べ,「今回の試験では,cT3もしくは所属リンパ節浸潤を伴う予後不良の前立腺癌で,かつGleason分類も高い患者に対し,長期の抗アンドロゲン療法が標準治療となりうることが示唆された」と結んでいる。
cT3でも全摘が放射線に勝る
一方,Zincke教授らは,メイヨー・クリニックで根治的前立腺摘除術(RP)を受けた前立腺癌患者5,652例を後ろ向きに解析した。RP後の15 年生存率は,cT3癌患者(一部にはRP後にホルモン療法もしくは放射線療法をアジュバントで施行)では約80%と,cT2癌患者の90%に近付いている。しかし,放射線療法を第一選択治療として受けたcT3癌患者では 5 年生存率でも70%と低かった。同教授は「cT3の癌は前立腺皮膜外浸潤を伴うため手術不能で,放射線治療を施行すべきという考えの泌尿器科医もおり,現在,こうした患者の15%にしか手術は適用されていない。このような潮流によりcT3癌患者は不利益を被っている」と指摘している。
スタチンに前立腺癌進行抑制効果 2005年6月2日号 / Vol.38 NO.22
ジョンズホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部とキンメル癌センター(ともにメリーランド州ボルティモア)のElizabeth Platz助教授らは,前立腺癌の進行予防にスタチン系薬剤が有効であることがわかったと米国癌研究協会(AACR)の第96回年次集会で報告した。
長期服用者ほど効果高い
今回の研究は,ハーバード大学(ボストン)の研究者らと共同で,抗高脂血症薬のスタチンを服用している医師,歯科医,獣医など医療専門職の男性 3 万4,438例を対象に,前立腺癌の発症・進行との関係を10年にわたり検討したもの。Platz助教授は「スタチン服用者で前立腺癌の進行リスクが半減した。スタチン投与と前立腺癌や乳癌,大腸癌の発症リスク低下との関係は,これまでの研究で既に示唆されているが,患者が癌診断を受ける前のスタチン服用歴と癌の進行抑制との関連を示した研究はこれが初めて」と述べている。今回の研究では,例えば抗高脂血症薬と初期の治癒可能な前立腺癌の進行とは関連しないことが示された。今回,スタチン服用期間が長いほど,前立腺癌進行リスクが低いこともわかった。同助教授は「被験者のほとんどで最も大きなリスク低減効果が認められた期間にスタチンを服用していたことから,スタチンは抗高脂血症薬のなかで最も大きなリスク低減効� ��があると考えられる」と指摘。しかし,「無条件にスタチン投与を開始する前に,背景にある生化学的機序を突き止め,スタチンには癌を最初から予防する効果があるのか,それとも進行を抑制するだけなのかを見極めるとともに,今回の知見を追認するための大規模試験を実施する必要がある」と付け加えている。
早期前立腺癌における根治的前立腺切除術と経過観察との比較2005年6月1日/ Dr. News Station (vol.704)
Radical Prostatectomy versus Watchful Waiting in Early Prostate Cancer:A. Bill-Axelson and others
背 景 2002 年,われわれは,早期前立腺癌の管理において根治的前立腺切除術と経過観察とを比較する試験を行い,初回の結果を報告した.その後 3 年間の追跡調査を行い,10 年の推定結果を報告する.
方 法 1989 年 10 月~1999 年 2 月の期間に,早期前立腺癌患者 695 例(平均 64.7 歳)を,根治的前立腺切除術(347 例)または経過観察(348 例)に無作為に割付けた.追跡調査では死因の評価を盲検下で行い,調査は 2003 年までに終了した.主要エンドポイントは前立腺癌による死亡とし,副次的エンドポイントは全死因死亡,転移,局所進行とした.
結 果 中央値 8.2 年の追跡期間中,手術群の 83 例と経過観察群の 106 例が死亡した(P=0.04).手術群の患者 347 例中 30 例(8.6%)と経過観察群の患者 348 例中 50 例(14.4%)は,前立腺癌が原因で死亡した.前立腺癌による死亡の累積発生率の差は,5 年後の 2.0 パーセントポイントから,10 年後には 5.3 パーセントポイントへと増加し,相対リスクは 0.56 であった(95%信頼区間 0.36~0.88,Gray 検定による P=0.01).遠隔転移は,1.7 パーセントポイント(5 年後)から 10.2 パーセントポイント(10 年後)へと増加し,手術群での相対リスクは 0.60(95%信頼区間 0.42~0.86,Gray 検定によるP=0.004)であった.局所進行は,19.1 パーセントポイント(5 年後)から 25.1 パーセントポイント(10年後)へと増加し,相対リスクは 0.33(95%信頼区間 0.25~0.44,Gray 検定による P<0.001)であった.
結 論 根治的前立腺切除術により,疾患特異的死亡率,全死亡率,転移や局所進行のリスクが減少する.10 年後の死亡リスクの絶対的減少は小さいが,転移や腫瘍の局所進行のリスクの減少は大きい.(N Engl J Med 2005; 352 : 1977 - 84)
抗アンドロゲン療法 前立腺癌患者の骨折リスクを増大2005年5月5日号 / Vol.38 NO.18
テキサス大学医学部門(UT MB,テキサス州ガルベストン)内科のVahakn B. Shahinian博士らは,抗アンドロゲン療法(ADT)を施行された前立腺癌患者の骨折率が,非施行患者よりも有意に高いとする解析結果をNew England Journal of Medicine(2005; 352: 154-164)に発表した。
相対骨折リスクが約50%増加
Shahinian博士らは,前立腺癌と診断されてから 5 年以上生存している66歳以上の男性 5 万613例の記録を解析した結果,診断後12~60か月間の骨折経験者はADT非施行群では12.6%であったのに対し,ADT施行群では19.4%であった。また,診断後最初の12か月間のゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬投与回数と,その後の骨折リスクとの間にも統計学的に有意な相関が認められた。ADT施行群で,前立腺癌診断前の 1 年間に入院を要する骨折を経験したのは0.26%であったのに対し,診断後の 1 年間では5.19%であった。一方,ADT非施行群では,それぞれ0.21%,2.37%であった。また,補正前の非骨折生存率は,精巣摘出術施行群と,診断後 1 年間に 9 回以上のGnRH作動薬投与群の 2 群で最も低かった。診断後最初の12か月間に骨折を経験する相対リスクは,精巣摘出術施行群が1.54,GnRH作動薬投与群が1.45,入院を要する骨折の相対リスクは,それぞれ1.70,1.66と,いずれも2 群間で同等であった。
高齢者群で高い潜在的骨折率
Shahinian博士は「今回の研究では,精巣摘出術もしくはGnRH作動薬によるADTが,前立腺癌患者の骨折リスク増大に関与していることが示唆された」と指摘している。さらに,悪性度の低い前立腺癌患者〔米国対癌合同委員会(AJCC)のステージ I , II , III と低~中等グレード〕に限定した解析でも,結果は全体の解析と同等であった。例えば,これらの患者では,骨折による入院率がADT非施行群で2.2%であったのに対し,ADT施行群では4.9%であった。同博士は「ADTを開始してから 6 ~12か月間に,骨密度が急激に低下することは以前から知られていた。しかし,これまでのADT施行患者における骨折リスク研究は,解析規模が小さいか,対照群を設定しておらず,不適切であった」と指摘している。今回の研究では,ADT非施行患者のデータを解析に含めるとともに交絡因子の補正を行ったことで,ADTに関するハザード比を計算できた。同博士は「今回算出されたハザード比はそれほど深刻なものではないが,今回の試験対象のような高齢患者群において,潜在的骨折率が高いことを考えると,臨床的に重要な知見と言える」と述べている。
ほとんどの患者が無症候
交絡因子としては,高ステージ癌ほど,また年齢が上昇するほど骨折リスクが増大することが挙げられる。さらに,ADTを施行される前から骨密� ��が減少傾向にある患者も交絡因子となることが,これまでの研究でわかっている。今回の試験では,年齢の上昇,診断時の癌ステージ,グレード,合併症の罹患に伴って,ADTの施行率も上昇していた。ADTは,組織限局性前立腺癌の治療において,放射線療法との併用で有効性が確認されている治療法である。しかし,Shahinian博士は「限局性前立腺癌患者と前立腺切除後に前立腺特異抗原(PSA)値が上昇した患者に対して,GnRH作動薬の形でADTを単独施行する例が増えてきている。これら 2 つの病態では,ほとんどの患者が無症候に近く,生存率に及ぼす恩恵は明らかにされてこなかった」と指摘している。しかし,前立腺癌患者における骨折が死亡率上昇に関与していることは,従来の研究で指摘されている。
ADTのリスクと恩恵を評価
Shahinian博士は「今回の研究の重要な示唆の 1 つとして,ADTのリスクと恩恵が評価されたことがある。同療法の施行は1990年代に劇的に増加した。その理由として,(1)局所進行前立腺癌患者での有効性が確認された(2)提供する側にとり金銭的に魅力がある(3)PSA値上昇に直面した際,医師も患者も何か手を打たなければという気持に迫られる-などが挙げられる。今回の知見は,これまでの小規模臨床試験の結果と同様,そうした治療の在り方が好ましくないことを裏づけている。したがって,同療法の施行の是非を患者と話し合う際には,骨折リスクや他の毒性を正しく計算すべきで,特にADTの有効性があいまいな条件下ではその必要がある。初期治療として同療法を施行される患者のほとんどは限局性前立腺癌患者である。また,GnRH作動薬は前立腺全摘後にPSA値が上昇した患者にも一� �的に処方されている。しかし,いずれの場合も,ADTが生存率改善に有効であるとのエビデンスは,臨床試験において確認されていない」と述べている。同博士は「GnRH作動薬の適用が明らかに有効な患者を対象として,ビスホスホネート製剤併用による骨折率低下の可能性を検討する試験が必要」と結論している。
スタチンが前立腺癌を予防し発症リスクを半減、4万人超の大規模データで裏づけ2005年5月16日 /Medwave
HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が前立腺癌を予防し、発症リスクをおよそ半分に減らす可能性があるようだ。4万人超の大規模データをもとにした後ろ向きケースコントロール・スタディで明らかになった。これは、米Miami VA MedicalCenterのRakesh Singal氏が、退役軍人の医療データを分析したもので、5月14日の一般口演で発表した。スタチンの前立腺癌予防効果を示唆する研究結果はこれまでにもあるが、これほど大規模なデータに基づく研究は初めて。Singal氏らは、1998~2004年間の合計44万3805人についてのデータを分析した。そのうち、スタチンを服用していたのは15万4795人(34.88%)だった。また、前立腺癌の診断を受けたのは2万6087人(5.88%)だった。
前立腺癌の発症に関与すると考えられる、年齢、喫煙、人種、糖尿病、肥満指数(BMI)については補正を行った。その結果、スタチン服用者の、非服用者に対する前立腺癌発症に関するオッズ比は、0.46(95%信頼区間:0.45~0.48)だった。同氏らの研究の中で得られた予備的な分析データでは、スタチンの服用期間が長く� ��るほど、前立腺癌の発症リスクの減少幅も増す傾向を示していたという。
Singal氏は、今回の結果を踏まえ、今後はスタチンの種類や服用量などについてサブグループ分析を行うとともに、前向きの無作為化試験を行う必要がある、と語った。会場からは、「スタチン投与が適切か否かを見極めるには、前立腺癌の予防効果だけでなく、試験のエンドポイントとして生存率が改善するかどうかを調べる必要がある」との意見が出され、Singal氏もそれに同意した。
定期的な激しい運動は前立腺癌の進行を遅らせる可能性 2005年5月12日 /Medscape
運動の効能が他にも多数立証されていることを考慮すると、前立腺癌による死亡率を下げるために定期的な激しい運動は推奨しても良いであろうと研究者らは示唆している
定期的に激しい運動をすると前立腺癌の進行を遅らせることができる可能性があるという医療従事者追跡調査研究のデータが『Archives of InternalMedicine』5月9日号に掲載された。 「身体活動が前立腺癌の罹患率や進行に好影響を与えるか否かは明らかではない」とハーバード大学公衆衛生学部(マサチューセッツ州、ボストン)のEdward L.Giovannucci, MD, ScDらは記述している。「そこで我々は、身体活動と前立腺癌の罹患率や死亡率、グリソン組織学的異型度との関係を評価した。」
医療従事者追跡調査研究において、47260人の男性医療従事者コホートのプロスペクティブ(前向き)な追跡調査が1986年2月1日から2000年1月31日までの期間行われた。追跡調査期間中に診断された2892人の新規前立腺癌症例のうち482人は進行癌であり、そのうち280人は癌死した。前立腺癌患者全例を対象とした場合、全身体活動、強度の身体活動、強度でない身体活動と前立腺癌の間にはなんら相関が認められなかった。
65歳以上の男性においては、最も強度の身体活動を行ったグループでは進行前立腺癌の危険性の低下(多変量相対危険度0.33、95%信頼区域0.17-0.62、代謝当量時間29時間以上群と0時間群の� �較)、前立腺癌により癌死する危険性の低下(多変量相対危険度0.26、95%信頼区域0.11-0.66)が認められたが、これらはより若年の患者群においては認められなかった。これらの知見は、スクリーニング方法が以前と異なって前立腺特異抗原(PSA)が近年用いられるようになったことや、未診断の前立腺癌のために身体活動が低下していることなどでは説明できない。前立腺癌患者の中では、身体活動が高度な人においては低分化癌(グリソングレード7以上)があまり見られない傾向にあった。
この研究の問題点としては、追跡調査研究における交絡の可能性が挙げられる。「作用機序はいまだ不明であるが、規則正しく激しい身体活動を行えば前立腺癌の進行を遅らせうることをこれらの知見は示唆している。特に運動には他にも多� �の利点があることを考えると、前立腺癌による死亡率を低下させるためには激しい身体活動を習慣づけることを推奨してもよいであろう」と著者らは記述している。「これらの結果は長期間にわたって一貫しており、バイアスや交絡が原因とは思われず、ホルモンが前立腺癌の進行に関与しているという仮説と矛盾しない」。米国立衛生研究所(NIH)がこの研究を支援した。著者らは資金の面で利害の抵触は無いと報告している。
前立腺がん3・5倍に 昼夜交代勤務の男性 心疾患死亡も2・8倍 2005年5月2日 /共同通信
24時間操業の工場や鉄道、ホテルなどの交代制職場で働く男性は、主に昼間働く日勤職場の男性に比べ、前立腺がんになる危険性が3.5倍、心筋梗塞などの虚血性心疾患で死亡する危険性が2.8倍高いことが、文部科学省が補助する大規模疫学研究(運営委員長・玉腰暁子名古屋大助教授)の分析で2日までに分かった。不規則な勤務による体内時計の乱れが関与していると考えられ、虚血性心疾患は血圧上昇やストレスも原因とみられる。厚生労働省の調査では、午後10時以降の深夜業に従事する労働者がいる事業所は2割に上り、うち半数が交代勤務を導入。研究者らは「前立腺がん検診の導入や、循環器病の危険因子を持っている人の適正配置など、労働管理の在り方を考えるべきだ」と話している。一般の人を追跡す� ��大規模疫学調査で交代勤務の健康影響を示した研究は少なく、前立腺がんの報告は世界初という。1988年から99年にかけて健康状態を追跡した全国約11万人のデータを利用。産業医大臨床疫学教室の久保達彦医師らは、がん罹患調査が行われた地域の男性労働者約1万6000人(40―79歳)を分析した。55人に前立腺がんが新たに見つかり、年齢などを統計的に調整した結果、交代勤務者は、日勤者に比べ前立腺がんになる危険性が3.5倍高いことが分かった。福岡労働衛生研究所の藤野善久医師が、40―59歳の男性約1万8000人を分析したところ、虚血性心疾患による死亡の危険性は2.8倍と判明。循環器病危険因子を持っている場合は危険性はさらに高まり、高血圧だと6.5倍、喫煙者は3.1倍、� �慣的飲酒者は3.6倍、体格指数(BMI)が25以上の肥満では6.1倍だった。
ビカルタミド療法に伴う乳房痛および女性化乳房がタモキシフェンにより減少する可能性 2005年4月28日 /Medscape
前立腺癌患者におけるビカルタミドの高ゴナドトロピン作用に対し、タモキシフェンによる抗エストロゲン療法が忍容性向上に有用な可能性を示唆するランダム化試験結果
ビカルタミド療法に伴う乳房痛および女性化乳房がタモキシフェン投与により減少することを示すランダム化試験結果が、『Lancet Oncology』4月14日付けでオンライン速報版に掲載された。
「ビカルタミド療法を受ける一部の前立腺癌患者では、タモキシフェンおよび放射線療法によって乳房腫大および乳房痛が防止され、また、タモキシフェンの有効性は放射線療法よりも高いことが、われわれの研究から明らかになった」と上席著者であるFederico II大学医学部(イタリア、ナポリ)のGiuseppe Di Lorenzo, MDはニュースリリースで述べている。
ビカルタミドは強力かつ忍容性良好な非ステロイド性抗男性ホルモン薬であり、限局性または局所進行前立腺癌の補助療法として検討されている。乳房痛を伴う、または伴わない女性化乳房は、 この種類の薬剤投与に伴い、しばしば認められる有害事象である。
前立腺癌の男性患者151例のうち、51例はビカルタミド150mg/日、50-150mg/日、タモキシフェン10mg/日を24週間投与する群、50例はビカルタミド150mg/日投与と放射線療法の併用群に無作為に割り付けた。放射線療法は、ビカルタミドの投与開始日に、乳頭周囲5cmの範囲に12Gyを1回照射した。ビカルタミド単独療法群51例のうち35例では女性化乳房または乳房痛が発現し、症状発現後まもなく(中央値180日、範囲160-195日)、タモキシフェン群� ��n=17)または放射線療法群(n=18)に無作為に割り付けられた。
乳房痛および女性化乳房について月1回評価した。乳房痛は「なし」、「軽症」、「中等症」、「重症」として、また、女性化乳房の重症度は最大直径に基づき評価した。主要転帰評価項目は女性化乳房または乳房痛の発現頻度であり、包括(ITT)解析を実施した。副次的転帰評価項目は、安全性・忍容性、再発を伴わない生存率(前立腺特異抗原(PSA)の濃度で判定)、QOL(生活の質)であった。女性化乳房が発現したのは、ビカルタミド単独療法群51例中35例であったが、ビカルタミドおよびタモキシフェン併用群では50例中4例(オッズ比0.1、95%信頼区間0.08-0.12、p=0.0009)、ビカルタミドおよび放射線療法併用群では50例中17例(オッズ比0.51、95%信頼区間0.47-0.54、p= 0.008)であった。乳房痛が発現したのは、ビカルタミド単独療法群51例中29例であったが、ビカルタミドおよびタモキシフェン併用群では3例(オッズ比0.1、95%信頼区間0.07-0.11、p=0.009)、ビカルタミドおよび放射線療法併用群では15例(オッズ比0.43、95%信頼区間0.40-0.45、p=0.02)であった。
当初ビカルタミド単独療法群にランダム化され、その後に女性化乳房、乳房痛または両者が発現した患者35例では、タモキシフェン療法によって女性化乳房の発現頻度が低下した(オッズ比0.2、95%信頼区間0.18-0.22、p=0.02)。
本研究結果の解釈を制限する要因として、非盲検試験デザインであること、プラセボ対照群が設定されていないこと、疼痛が重症度に基づき主観にて評価されていること、主要評価項目として生存率を評価できないこ� �が挙げられる。「タモキシフェンによる抗エストロゲン療法は、前立腺癌患者において、ビカルタミド単独療法に伴う過剰ゴナドトロピン性作用への忍容性向上に有用な可能性がある」と著者らは記している。「ビカルタミドにタモキシフェンを併用した場合、有害事象は増加せず、また、ビカルタミド単独療法に比較して、QOLおよびPSA再発を伴わない生存率が低下することもなかった」。しかしながら、タモキシフェンにより、視床下部-下垂体系に対するエストラジオールの負のフィードバックが阻止され、男性ホルモン分泌が増大する可能性があるため、前立腺癌患者におけるタモキシフェンの使用については、いくらか懸念がある、と著者らは指摘している。従って、著者らは、今後さらに臨床試験を実施することを推奨している� �
前立腺癌の放射線治療は直腸癌リスクを増す2005年4月25日 /Medwave
前立腺癌に対する放射線治療は、骨盤内の他の臓器に影響を及ぼすことはないのか--。
米国Minnesota大学のNancy N. Baxter氏らは、前立腺癌の放射線治療が直腸癌リスクを上昇させることを発見、Gastroenterology誌2005年4月号に報告した。前立腺癌に対する治療には、外科的切除、内分泌療法、放射線治療など複数の選択肢があり、病気の状態のほか、患者の年齢や治療後のQOLなどを考慮して決められることが多い。近年、放射線治療の意義が認められ、外照射、内照射ともに日本でも普及している。しかしこれまでに、放射線治療が膀胱癌リスクを高めるという報告があったが、結腸直腸癌についてのリスクは明らかではなかった。そこでBaxter氏らは、米国癌研究所(NCI)のSEER(調査・疫学・最終結果データベース)に登録された1973~1994年のデータを用いて、集団ベースの後ろ向き研究を行った。対象となったのは、前立腺癌だが転移はなく、結腸直腸癌の既 往がない、18~80歳の患者約8万5000人。手術のみの適用だったのは5万5263人、放射線治療を受けた患者は3万552人いた。患者全体の平均年齢は67.6歳、放射線治療群の平均年齢は手術群より約2歳上だった。個々の患者について少なくとも5年間の追跡をおこない、結腸の3つの部位の発癌について調べた。Aは明らかに照射を受けた部位(直腸)、Bは照射可能性のある部位(直腸S状結腸移行部、S状結腸、盲腸)、Cは照射されていない部位(結腸のそれ以外の部位)。比例ハザード・モデルを用いて、結腸直腸癌発症への放射線の影響を評価した。
追跡期間中に結腸直腸癌を発症したのは1万4637人。そのうち267人がA群、686人がB群、484人がC群に属していた。手術のみのグループと比べ、放射線治療群では照射を受けた部位に結腸癌が� ��じるリスクは有意に高く(他の要因で調整後のハザードは1.7、95%信頼区間1.4-2.2、p<0.0001)、放射線治療が独立したリスク因子であることが明らかになった。この値は、第一度近親者が大腸癌である場合のリスクと同等だ。
著者らによると米国では、前立腺癌患者の約17%に外照射が適用されているという。患者自身が治療の選択を迫られたとき、個々の治療の利益とリスクがわかりやすく提示される必要がある。また、放射線治療は、患者が好ましく思う可能性が高いだけに、照射技術のさらなる向上が望まれる。本論文の原題は「Increased risk of rectal cancer after prostate radiation: A population-based study」
~前立腺癌治療後のED回避~底部血管避け放射線を照射 2005年3月24,31日号 / Vol.38 NO.12,13
ミシガン大学総合癌センター(アナーバー)放射線腫瘍学のPatrick W.Mc-Laughlin臨床教授らは,前立腺癌患者の放射線治療後に起こる勃起不全(ED)を予防する革新的な治療計画を検討中で,このほど25例を対象とした初期研究の成果をInternational Journal of RadiationOncology Biology Physics(2005; 61: 20-31)に発表した。治療前の前立腺サイズの測定にCTだけでなく,MRIも用いることで,勃起機能を制御する血管の位置を正確に把握し,前立腺のみを標的に照射を行い,これら近傍の血管を温存するというもの。
血管への照射回避が重要
米国では,2004年に約23万人が前立腺癌と診断されている。前立腺癌は高齢者に多いが,50歳代で診断される男性の数も増加している。ミシガン州サウスフィールドとノバイに癌センターを併設するプロビデンス病院(サウスフィールド)の放射線腫瘍学部長でもあるMcLaughlin教授は「若齢患者の治療が増えるに従って,勃起機能は重要な関心事となっている。50歳代の男性をしばしば治療しているが,彼らにとって勃起機能は非常に重大な問題である。ほとんどの患者で癌は治癒するが,治癒 率がきわめて高くなれば,関心事はQOLに移行する」と述べている。
前立腺癌治療は手術により前立腺を摘出するか,放射線療法を行うかのいずれかである。手術では勃起機能をつかさどる神経を切断することがあるが,これを回避する新しい手技が用いられるようになっている。しかし,放射線療法後のEDの原因は,それほど明らかではない。ただ,非前立腺癌男性のEDの原因で最も多いのは血管障害であるため,放射線照射が治療範囲内の血管閉塞の原因となることが推測できる。そこで,同教授らは,放射線関連EDは血管障害であるとの前提で研究を開始した。
MRI併用で底部を正確に同定
一般的に,放射線腫瘍医はCTを用いて前立腺のサイズを特定し,治療計画を立てる。しかし,CTの撮像能力には限界があり,前立 腺の底部は撮影できない。そのため,特定できた部位からの平均的な長さをもとに,前立腺の底部がどこにあるのかを推測するしかない。ミシガン大学の研究ではCTに加えてMRI を用い,前立腺全体をより正確に画像化し,前立腺から尿道球部までの距離は0.5~2.0cmであることを突き止めた。McLaughlin教授は「一般的に用いられる不正確な手技の評価を試みた。前立腺から尿道球までの距離を平均1.5cmと推測することで,必要以上に治療範囲を広げるか,前立腺を取り残すかのいずれかになる」と述べている。MRIの併用により,前立腺全体を照射域に含むが,その下部の重要な血管は回避する治療を計画できた。予備試験の結果では,血管への放射線照射回避により,EDを予防できることが示唆された。
関連問題も改善
McLaughlin教授は「CTスキャンではこの部位を鮮明に視覚化できず,前立腺の下部まで照射しても問題はないと決め込んでしまう。しかし,これは大問題である。前立腺の下部には癌はない� �え,勃起機能や尿道括約筋の機能に重要な構造であるからだ。前立腺の下部にも放射線を照射することで,不要な問題を招くことになるかもしれない。私の経験からも,こうした治療法が非常に大きな悪影響を及ぼすことはほぼ間違いない」と述べている。前立腺癌に対する放射線療法を受ける男性の約 2 人に 1 人が,5 年後にはクエン酸シルデナフィルなどの薬剤を用いなければ性交不能になっている。さらに,勃起機能に関係する血管は消化器系や膀胱機能の制御にも関与している。同教授らは,この部位への放射線照射を避けることで,尿漏や消化器系の障害など,他のQOL関連問題も改善されるのではないかと推測している。
前立腺癌の薬剤感受性を分子学的に特定 2005年3月10日号 / Vol.38 NO.10
癌増殖促進細胞シグナル伝達経路を遮断
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA,ロサンゼルス)ジョンソン総合癌センター病理学・臨床検査医学のGeorge V. Thomas博士らは,前立腺癌の増殖を促進する細胞シグナル伝達経路を遮断する新療法に反応する患者を見極める方法をClinical Cancer Research(2004; 10: 8351-8356)に発表した。
PTEN遺伝子欠損で感受性高い
Thomas博士は「これまでの画一的な化学療法では,前立腺癌細胞だけでなく正常細胞も傷害されていたが,この新しい方法により,特定の分子標的に基づいて前立腺癌治療を行う機会が得られることになりそうだ。今回,われわれは患者選択手順を示すバイオマーカーの組み合わせを探り,癌が標的薬剤の影響を非常に受けやすくなる特定の変異の組み合わせを特定する方法を明らかにした。これにより,治療が適合する患者を選択できる」と述べている。同博士と共同研究者でUCLAのCharles Sawyers博士らは,これまでの動物実験における細胞株研究に基づき,腫瘍増殖を阻害するPTEN遺伝子の欠損が腫瘍促進蛋白質であるAKTの制御不能な活性化を引き起こし,AKTが活性化すると,癌促進カスケードにおけるmTORという酵素が活性化され,さらにS6が活性化されることを,前立腺癌組織において初めて確認した。
しかし,今回の研究ではこのmTORカスケードを部分的に阻害することで,前立腺腫瘍の増殖が停止することも明らかになった。また,PTEN遺伝子の欠損により,mTOR経路が活性化され,腫瘍促進カスケードが始動するが,PTEN遺伝子を欠損する腫瘍は,mTOR酵素を阻害する治験薬CCI-779に対して非常に感受性が高いことも明らかにされた。
Thomas博士は「mTORを阻害することにより,腫瘍促進カスケードが遮断される。CCI-779� �癌成長を誘発するシグナル伝達経路を遮断する薬剤であるが,今回の知見が得られる以前は,同薬に反応する患者を分子学的に特定する方法がなかった」と述べている。現在,この新療法の試験が,UCLA,テキサス大学MDアンダーソン癌センター(テキサス州ヒューストン),フォックスチェイス癌センター(ペンシルベニア州フィラデルフィア)において進行中である。米国では2005年中に約22万人が前立腺癌の診断を受けると推算されている。また,そのうち25~30%はPTEN遺伝子を欠損する腫瘍であるという。米国癌協会によると,前立腺癌は米国男性の癌死の第 2位を占めている。
~前立腺癌のHIFU治療~長期成績の検証が今後の課題2005年3月3日号 / Vol.38 NO.9
限局性前立腺癌に対する根治的治療法としてのHIFU(高密度焦点式超音波法)について,ノルトベスト病院(フランクフルト)泌尿器科のEduard Becht教授に聞いた。手術に代わる方法として期待HIFUは,アプリケータとして直腸内に配置されたトランスデューサーを介して,超音波を焦点領域に正確に集束させ,高エネルギーの 5 秒クロックパルスで腫瘍を凝固壊死に導く方法で,焦点領域を正確にコントロールできるため腸壁など周囲に介在する組織が損傷を受けることはない。
HIFUの適応は,リスクが高く手術が不可能な限局性前立腺癌患者である。前立腺肥大の併発を認める場合には,まず経尿道的前立腺切除術(TURP)を行った後,HIFUを適用する(両手技は 1 回のセッションで行う)。TURP後の切除片から癌が発見された場合でも,HIFUによる後療法が可能である。HIFUは通常,脊髄麻酔下または全身麻酔下で行われ,所要時間は 3 ~ 4 時間である。反復治療が可能で,HIFU後の患者には原則的に他のすべての治療法(手術,照射療法,寒冷療法,密封小線源療法,ホルモン療法,化学療法)が選択肢として残されている。
副作用は,TURPの場合と同様であり,閉塞性および刺激性の膀胱痛である。腫脹や壊死組織の漏出による尿閉は,恥骨上カテーテルによって予防できる。また,感染のコントロールは通常,抗菌薬で十分可能である。約 5 %では腹圧性尿失禁が認められるが,大部分は自然寛解する。回復が思わしくない場合には骨盤底筋訓練による改善を図る。ただし,勃起不全は発現頻度が 1 %未満であるものの,フィステル形成リスクが存在することを患者には説明しておくべきである。
Becht教授によると,特に2003年の欧州多施設試験などの文献では,HIFUの奏効率(治療後の生検所見が陰性)は87%,しかも低リスク患者では92%と記載されている。ドイツでは既に多数の患者がHIFUの適用を受けており,フランクフルト以外ではミュンヘン,レーゲンスブルク,ハンブルクで適用されている。この比較的新しい方法は,これまでの 5 ~ 7 年間では良好な成績をおさめているが,さらに長期間にわたるフォローアップのデータが待たれるところである。
~PSA異常例の前立腺癌確定診断~生検標本採取方法で議論2005年1月20日号 / Vol.38 NO.3
前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングが普及するのに伴い,精密検査を必要とする患者は増える一方である。しかし,前立腺癌の診断に有用な生検か所については依然として議論が続けられており,1 回の検査で60か所以上の生検が実施され検体が採取されたというケースも報告されている。ディアコニッセ病院(フレンスブルク)のTillmann Loch講師は,第56回ドイツ泌尿器科学会で,前立腺生検の現状について報告した。
過小評価されやすい前立腺体積
何年もの間,各葉からそれぞれ 3 か所の標本を採取する系統的なsextant biopsy( 6 か所生検)が前立腺癌に対する標準的診断法とされてきた。しかし,患者により前立腺の大きさは異なることから,その後,これは系統的multiple biopsy(多数か所生検)に取って代わられるようになった。ただし,生検の至適か所は確立されておらず,多数の経直腸超音波(TRUS)ガイド下生検で陰性所見が得られた場合には癌であるリスクは低いものの,癌を完全に除外できない。多くの研究では,前立腺体積に応じて生検か所を決定するのが好ましいとされているが,前立腺の体積は過小に評価されやすいという問題点もある。
過去 2 回の生検で陰性の場合は,古典的なsextant biopsyではそれ以上の情報は実際的に得られない。また,multiple biopsyもしくはsaturation biopsy(飽和生検)の場合には,前回既に検査ずみの部位に対して,重複して生検が行われることが起こりうる。Loch講師は,1 回の手技(麻酔下)で,141か所の生検が行われた症例があると報告したが,パンチか所を際限なく増やしても無駄である。
これに対して,コンピュータ制御経直腸超音波法と呼ばれる新しい技術を導入すれば,診断は飛躍的に改善される。従来法と比べて,この技術は革新的であり,エコーで異常の見られた領域をコンピュータでマーキングし,ねらいを定めて生検標本を採取する仕組みである。予備生検(平均12か所)で異常を認めなかった患者66例に同法を適用したところ, 2 例に 1 例の割合で癌が発見されたという。また,同講師は「multiple biopsy後には,PSA値がかなり上昇する場合があり,泌尿器科医が"問題患者"をつくり出している恐れもある」と注意を呼びかけた。
前立腺癌Rb遺伝子アレルの一方の欠失でも発生 2005年1月6日号 / Vol.38 NO.1
フレッドハッチンソン癌研究センター(シアトル)臨床研究部門のNorman M.Greenberg博士らは,Rb遺伝子を前立腺のみで欠失するモデルマウスを用いて,前立腺癌成長の最初期段階で起こりうる遺伝子欠失の特定を試み,ヒト前立腺癌の前癌状態に類似した変化は,Rb遺伝子アレルの一方の欠失でも発生するが,他の遺伝子欠失がなければ,前立腺癌には至らないとする新知見をCancer Research(2004; 64: 6018-6025)に発表した。今回の知見は,前立腺癌悪化を予測する新検査法や癌進行の予防治療開発への扉を開くもの。
Rb以外の第2の変異で悪性化
研究責任者のGreenberg博士は「このことは,前立腺細胞におけるRb遺伝子欠失が,特定の男性で最終的に前立腺癌発症の引き金となることを示唆している。Rb遺伝子欠失の発見は,火災の前兆となる煙の発見に等しい。次は,実際に炎を起こす遺伝的予測因子を特定する必要がある」と述べている。同博士らは,前立腺癌の初期段階を誘発する遺伝子変異を特定するため,Rb遺伝子にスポットを当てた。同遺伝子の欠失は,さまざまな癌細胞で確認されているが,ヒト前立腺癌では60%近くで欠失が認められている。Rbは癌抑制遺伝子の 1 つで,通常は細胞分裂を正常速度に保つ役割を果たしている。癌抑制遺伝子の欠失を有する細胞は,細胞分裂が抑制されないという癌細胞に顕著な特徴を示す。同博士らは,前立腺細胞のRb遺伝子アレルの一方もしくは両方を自己破壊するモデルマウスを遺伝子工学的に作製した。標準的な遺伝子ノックアウトマウスとの重要な違いは,このマウスでは他の組織のRb遺伝子はすべて正常に保たれることである。これにより,ヒトにおいて組織ごとに癌細胞の遺伝子が不活化されたり欠失したりするのに非常に近い状態をつくることができる。研究の結果,前立腺細胞のRb遺伝子アレルの一方でも欠失していれば,前癌状態に特徴的な巣状過形成が前立腺で進行することがわかった。しかし,こうした増殖が認められてから約 1 年経過しても細胞は癌化しなかった。同博士は「このことは,Rb遺伝子アレルの一方が欠失するだけでも,こうした過剰な細胞成長を誘発できるが,癌の発症には不十分であることを示唆している。これまで腫瘍進行にはRb遺伝子アレルの 2 コピーを欠失することが不可欠とされていたが,前癌状態をつくるにはアレルの一方を欠失するだけで十分なようだ。これはおそらく,今回得られた知見のなかで最も重要なものだろう」と述べている。同博士らは,以前,Rb遺伝子と,関連蛋白質,癌抑制遺伝子であるp53のすべてが欠失することで,悪性度の高い前立腺癌が形成されやすくなることをマウスで示したが,腫瘍細胞におけるRb遺伝子の役割はなぞのままであった。どのような 第 2 の変異により,この前癌状態が前立腺癌へと変化するのかを特定するには,さらなる研究が必要である。同博士は「Rb遺伝子変異のみを有する男性と,それ以外の遺伝子欠失を有する男性とを区別する検査ができれば,積極的治療の必要性と最適な施行時期を判断するのに役立つだろう。今のところ,緩慢に成長する前立腺癌に死亡リスクがないか否かを早期かつ確実に予測する方法はない。したがって,多くの男性が重度な副作用を伴う不必要な治療を受けている」と説明している。
早期の悪性度検査の開発に期待
遺伝子と癌の因果関係の確立は非常に困難な作業である。前立腺上皮細胞の遺伝子を選択的に欠失させることのできるマウス系を用いてこれに取り組んできた Greenberg博士は,「この実験方法は男性で起こる状態を非常によく模倣し,これまでわからなかった疾患の自然史を垣間見る機会を与えてくれる」と述べている。また,同博士は,2004年 1 月にフレッドハッチンソン癌研究センターに移籍する前に勤務していたベイラー医科大学(テキサス州ヒューストン)で,前立腺癌発症マウス系を遺伝子工学的に開発。このマウスは広く使用されている。同博士は「これらのモデルは,哺乳動物のin vivoで,特定の遺伝子がどのような働きをするのかに関してより深い洞察を与えてくれるもので,癌研究の新時代を代表している。臨床ではまれにしか観察できない前癌状態をきわめて再現性高くつくり出してくれるため,新規の癌検出マーカーの開発や新しい予防・早期介入戦略に活用できる」と付け加えている。米国では前立腺癌が男性の死因の第 2 位で,前立腺癌と診断される男性は,昨年は23万人以上と推定されていた。これは,主として前立腺特異抗原(PSA)検査によるスクリーニングが普及したためであるが,同検査に関しては,リスクが高くないとされる非進行性の癌と,治療が必要な悪性癌との区別ができないため,賛否両論がある。現在,早期前立腺癌の進行を予測して分類できる検査の開発に力が注がれているが,こうした検査が登場すれば,多くの男性が不必要な手術や放射線療法を受けずにすむ。このことを念頭に置いて,同博士は「次の目標はp53遺伝子などの癌抑制遺伝子に発生する変異など,Rb遺伝子と協働して,良性腫瘍を癌化させる第 2 の変異を特定することである。それにより,血液などの簡単な検査で,これらの変異を検出して,危険な状態になるはるか以前に患者の前立腺癌の種類に関する予測情報を明らかにする方法を開発できることが理想である。これは,癌検出の基準をできるだけ早期の段階に設けるという発想である。前立腺癌と診断された若年男性が,自分の癌は非進行性なのか,それとも救命には早期介入が必要なのかを確実に知ることができるようにすることが望ましい」と述べている。
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