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(小児の心不全については,先天性心血管異常: 心不全を参照 。)
心不全は心室機能不全症候群である。左室不全では息切れおよび疲労が生じ,右室不全では末梢および腹部の体液貯留が生じる;通常,両心室がある程度関連する。診断は臨床的に行われ,胸部X線および心エコー検査により裏づけられる。治療には,利尿薬,ACE阻害薬,β遮断薬,および基礎疾患の修正がある。
米国では約500万人が心不全(HF)に罹患しており,毎年50万人を超える新規症例が認められる。
生理
心収縮性(収縮力および収縮速度),心室機能,および心筋O2要求量は,前負荷,後負荷,基質の供給量(例,O2 ,脂肪酸,ブドウ糖),心拍数および調律,ならびに生存心筋量によって決まる。心拍出量(CO)は1回拍出量と心拍数の積に等しい;COはまた,静脈還流量,末梢血管緊張度,および神経液性因子の影響を受ける。
前負荷は,収縮期直前である弛緩相(拡張期)終期に,心臓にかかる負荷条件である。前負荷は拡張終期心筋線維伸展の程度および拡張終期容量を表し,これは心室拡張期圧および心筋壁組成の影響を受ける。典型的には,左室(LV)拡張終期圧は,特に正常値を超えていれば,前負荷の妥当な指標である。左室拡張,肥大,および心筋伸展性の変化(コンプライアンス)は前負荷に影響する。
後負荷は収縮期開始時に心筋線維収縮に抵抗する力である;これは大動脈弁開口時の室圧,容量,および壁厚により決まる。臨床的には,大動脈弁開口時または直後の全身血圧は最大収縮期壁応力を表し,後負荷にほぼ等しい。
フランク-スターリングの法則は前負荷と心機能との関係を表す。正常では収縮期収縮機能(1回拍出量またはCOによって表される)は標準的な生理範囲内の前負荷に比例することを,この法則は説明している(心不全および心筋症: フランク-スターリングの法則。図 1: を参照) 収縮性は,心臓カテーテル法を用いなければ測定困難であるが駆出率(EF)にある程度反映され,これは収縮毎に駆出される拡張終期容量のパーセンテージ(左室1回拍出量/拡張終期容量)である。
心予備能とは,情動ストレスや身体的ストレスに反応して安静時の水準を超えて心機能を上昇させる能力である;最大労作中に,身体のO2消費量は250mL/分から1500mL/分以上に増加しうる。その機序には,心拍数,収縮期容量,拡張期容量,1回拍出量,および組織O2抽出量(動脈血と混合静脈血または肺動脈血とのO2含量較差)の増加がある。 十分に鍛えられた若年成人では,心拍数は安静時の55〜70/分から最大運動時には180拍/分まで増加し,COは6L/分から25L/分以上に増加する。安静時には,動脈血は約18mL/dLのO2を含み,混合静脈血または肺動脈血は約14mL/dLのO2を含む。したがって,O2抽出量は約4.0mL/dLであるが,需要が増加すると抽出量は12〜14mL/dLまで増加しうる。これらの機序は心不全の代償にも役立つ。
病態生理
心不全では,心臓が代謝要求に適う量の血液を組織に供給できないことがあり,心臓との関連で上昇した肺または全身の静脈圧が臓器うっ血をもたらすことがある。この状態は,収縮機能,拡張機能,または一般的には両機能の異常に起因しうる。
収縮機能不全では,心室収縮不良や心室駆出不十分がまず拡張期容量および拡張期圧の上昇をもたらす。その後,EFが低下する。エネルギー利用,エネルギー供給,電気生理学的機能,および収縮要素の相互作用に様々な欠陥が生じるが,これは細胞内Ca調節やサイクリックアデノシン1リン酸(cAMP)産生の異常に伴うものである。心筋梗塞による心不全では,顕著な収縮機能不全が一般的にみられる。収縮機能不全は主に左室または右室(RV)に生じる;左室不全はしばしば右室不全につながる。
拡張機能不全では心室の充満が障害され,心室拡張終期容量の減少,拡張終期圧の増加,または両方が生じる。収縮性,ひいてはEFは正常に保たれる;充満不良の左室において,駆出が完全に近く,COが維持されれば,EFは増加することもある。左室充満の著しい低下は低COおよび全身症状をもたらす。左房圧の上昇は肺うっ血を惹起しうる。拡張機能不全は通常,心室弛緩の障害(能動的な過程),心室スティッフネスの増加,収縮性心膜炎,または房室弁狭窄から生じる。充満抵抗は加齢とともに上昇するが,これは恐らく心筋細胞の喪失および間質性コラーゲン沈着の増加を反映している;したがって,拡張機能不全は特に高齢者で一般的にみられる。肥大型心筋症,心室肥大を伴う障害(例,高血圧,重度の大動脈弁狭窄),お� ��びアミロイドの心筋浸潤では,拡張機能不全が優勢であると考えられる。もし右室圧が著明に上昇して心室中隔が左側へ移動すれば,左室の充満および機能も障害されうる。
左室不全 ではCOは減少し,肺静脈圧は上昇する。肺毛細血管圧が血漿蛋白コロイド浸透圧(約24mmHg)を超えると,体液が毛細血管から間質および肺胞へと漏出し,肺コンプライアンスが減少し,呼吸仕事量が増加する。リンパドレナージは増加するが,胸水の増加は代償されない。肺胞への著明な液貯留(肺水腫)により,換気-血流比(肺胞換気量[V]/肺血流量[Q])が著しく変化する:非酸素化肺動脈血は換気の低下した肺胞を通過し,全身動脈血の酸素化(PaO2)が低下して呼吸困難が生じる。 しかしながら,呼吸困難はV/Q異常に先立って起こることがあり,恐らくは肺静脈圧の上昇および呼吸仕事量の増加が原因であるが,その正確な機序は不明である。重度または慢性の左室不全では,胸水はまず右胸郭内に,その後両側に貯留することを特徴とし,呼吸困難をさらに悪化させる。分時換気量は増加する;そのため,PaCO2が低下し,血液pHが上昇する(呼吸性アルカローシス)。細気管支の著明な間質性浮腫は換気を妨げ,PaCO2を上昇させることがある(呼吸不全切迫の徴候)。
右室不全 では全身静脈圧が上昇し,主に荷重のかかる組織(歩行可能な患者の足や足首)や腹腔内臓器に体液が滲出して浮腫が起こる。肝臓が最も影響を受けるが,胃や腸もうっ血する;腹膜腔の液貯留(腹水)が起こることがある。右室不全は一般に,中等度の肝機能不全を引き起こし,通常,抱合型および非抱合型ビリルビンの軽度上昇,プロトロンビン時間(PT)の軽度延長,および肝酵素(例,アルカリホスファターゼ,AST,ALT)の軽度上昇を伴う。肝障害によりアルドステロン分解能が低下し,体液貯留をさらに亢進させる。臓器における慢性静脈うっ血は,食欲不振,吸収不良および蛋白漏出性腸症(下痢および著明な低アルブミン血症を特徴とする),消化管の慢性失血,そしてまれに腸管の虚血性梗塞を引き起こす可能性がある。
心臓の反応: 心室機能が障害されると,COを維持するためにより大きな前負荷が必要となる。結果として,左室は徐々にリモデリングされる:左室は卵形から球形となり,拡張し,肥大する。初期には代償性であるが,これらの変化は最終的に拡張期スティッフネスおよび壁張力を増強させ,これにより特に身体的ストレスがかかったときに心機能が低下する。壁応力の上昇により,O2要求量が増大し,心筋細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)が加速する。
血行動態の反応: COが低下した状況では,組織へのO2運搬は,O2抽出量を増加させることや,ときに酸化ヘモグロビン解離曲線を右側へ移行させてO2放出を促進することにより維持される(肺機能検査: 酸化ヘモグロビン解離曲線。を参照 図 4: )。
全身血圧の低下を伴うCOの減少は動脈の圧反射を活性化させ,これにより交感神経系の緊張が亢進し副交感神経系の興奮が抑制される。結果として,心拍数および心筋収縮力は増加し,特定の血管床の細動脈は収縮して,静脈収縮が起こり,Naおよび水分が保持される;心不全の初期には,このような変化が心室機能低下を代償し,血行動態の恒常性を維持するのに役立つ。しかしながら,これらの代償性変化は,心仕事量,前負荷,および後負荷の増大,冠灌流および腎灌流の減少,体液貯留によるうっ血,K排泄亢進,心筋壊死,ならびに不整脈をもたらす。
腎臓の反応: 心機能が悪化すると,腎血流および糸球体濾過率(GFR)は低下し,腎臓内の血流は再分布される。濾過率およびNa濾過は低下するが,尿細管再吸収が増大してNaおよび水分は保持される。血流は労作時にさらに再分布されて腎臓に送られなくなるが,安静時には改善して恐らくは夜間頻尿の原因となる。
腎灌流の減少(および恐らく心室機能低下に続く収縮期の動脈伸展の減弱も)はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を活性化させ(動脈高血圧: レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系も参照 ),Naおよび水分の保持が増加し,腎臓や末梢の血管緊張が亢進する。これらの作用は心不全に伴う強度の交感神経賦活により増強される。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン-バソプレシン(抗利尿ホルモン[ADH])系は,悪影響を及ぼしうる一連の反応をもたらす。アンジオテンシンⅡは,腎輸出血管を含む血管の収縮を引き起こしアルドステロン産生を増強することで心不全を悪化させ,これは遠位ネフロンにおけるNa再吸収を亢進させるだけでなく心筋および血管のコラーゲン沈着および線維化も惹起する。アンジオテンシンⅡはノルエピネフリン放出を促進し,ADH放出を刺激して,アポトーシスを誘発する。アンジオテンシンⅡは血管および心筋の肥大に関与することがあり,そのため心臓および末梢血管構造のリモデリングが生じ,場合によっては心不全が悪化する。アルドステロンは,心臓および血管構造においてアンジオテンシンⅡに非依存的に合成され(� �らく,コルチコトルピン,一酸化窒素,フリーラジカル,および他の刺激が介在する),これらの臓器に悪影響を及ぼすことがある。
神経体液性反応: ストレス条件下では,神経体液性反応は心機能の向上および血圧や臓器灌流の維持に役立つが,これらの反応の慢性的な活性化は,心筋刺激ホルモンと血管収縮ホルモン,および心筋弛緩ホルモンと血管拡張ホルモンとの正常なバランスに悪影響を及ぼす。
薬剤誘発性構音障害
心臓には多くの神経体液性受容体が存在する(α1,β1,β2,β3,アンジオテンシンⅡタイプ1[AT1]およびタイプ2[AT2],ムスカリン,エンドセリン,セロトニン,アデノシン,サイトカイン);これらの受容体の役割は,いまだ十分に解明されていない。心不全患者では,β1受容体(心臓のβ受容体の70%を占める)は,恐らく強度の交感神経賦活に反応してダウンレギュレーションされている;このダウンレギュレーションの作用は筋細胞の収縮性障害である。
血漿ノルエピネフリン濃度は上昇するが,血漿エピネフリン濃度は上昇しないので,この濃度上昇は主として交感神経刺激を反映している。悪影響には,前負荷および後負荷の増大を伴う血管収縮,アポトーシスを含む心筋の直接障害,腎血流の減少,ならびにレニン-アンジオテンシン-アルドステロン-ADHカスケードを含む他の神経体液系の活性化がある。
ADHは血圧低下に反応して,種々の神経ホルモン刺激を介して放出される。ADHの上昇は自由水の腎排泄を減少させ,恐らくは心不全における低ナトリウム血症の一因となる。血圧正常の心不全ではADH濃度は一定しない。
心房性ナトリウム利尿ペプチドは心房の容量および圧に反応して放出される;脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は心室伸展に反応して心室から放出される。これらのペプチドはNaの腎排泄を促進するが,心不全患者では,腎灌流圧低下,受容体ダウンレギュレーション,および恐らくは酵素による分解促進がその作用を減弱させる。
心不全では内皮障害が起こるため,産生される内因性血管拡張物質(例,一酸化窒素,プロスタグランジン類)は少なく,より多くの内因性血管収縮物質(例,エンドセリン)が産生される。
機能不全に陥った心臓および他の臓器は腫瘍壊死因子(TNF)αを産生する。このサイトカインは異化作用を促進し,おそらく,重症の症候性心不全に伴うことがある心臓悪液質(10%以上の除脂肪組織喪失)および他の有害な変化に関与する。
分類と病因
心臓因子および全身因子のいずれもが心機能を障害し,心不全を惹起しうる。心臓因子には心筋障害(例,心筋梗塞または心筋炎では急性,種々の障害による線維化では慢性),弁膜異常,不整脈(頻拍性不整脈または徐脈性不整脈),および基質供給量の減少(すなわち虚血)がある。全身因子には,全身性高血圧など,CO要求量の増加(高拍出性心不全を来す)や拍出抵抗(後負荷)の増加をもたらすあらゆる障害が含まれる。
心臓は統合されたポンプであり,1心腔の変化は最終的に心臓全体に影響するため,従来の左室不全および右室不全の区別にはいくぶん誤りがある。しかしながら,これらの用語は心不全につながる主要な病変の位置を示しており,初期の評価および治療に有用となりうる。
左室不全は,虚血性心疾患,高血圧,大動脈弁狭窄症,心筋症の大半の病型,後天性の僧帽弁逆流または大動脈弁逆流,および先天性心疾患(例,心室中隔欠損症,シャント量の多い動脈管開存症)において発症することを特徴とする。
右室不全は一般的に,陳旧性左室不全(肺静脈圧を上昇させて肺動脈性肺高血圧を来し,したがって右室に過剰な負荷をかける)により,または重度の肺疾患(肺性心と呼ばれる場合―心不全および心筋症: 肺性心を参照 )により引き起こされる。他には,多発性肺塞栓,肺静脈閉塞,右室梗塞,原発性肺高血圧,三尖弁の逆流または狭窄,僧帽弁狭窄,肺動脈または肺動脈弁の狭窄が原因となる。ある種の状態は,心機能が正常であることを除けば,右室不全に類似する;この状態には,赤血球増多症または輸血過剰における体液量過剰および全身静脈圧上昇,NaおよびH2O貯留に誘発される水分過剰を伴う急性腎不全,ならびに上下いずれかの大静脈閉塞がある。
両心室不全は,心筋全体を冒す障害に起因する(例,ウイルス性心筋炎,アミロイドーシス,シャーガス病)。
高拍出性心不全はCO要求量が持続的に高くなることに起因し,最終的には正常な心臓が十分な拍出量を維持する能力が失われることがある。COが増加しうる状態には,重度の貧血,脚気,甲状腺中毒症,進行したぺージェット病,動静脈瘻,および持続性の頻拍がある。種々の肝硬変もCOが上昇するが,観察される体液貯留の多くは肝臓のメカニズムによるものである。
心筋症は心筋の疾患を表す一般用語であり,ときに病因を表すために用いられる(例,虚血性心筋症に対して高血圧性心筋症)。最も一般的には,この用語は,先天性の解剖学的異常に起因しない一次性の心室心筋障害;弁膜性,全身性,もしくは肺血管性の障害;心膜,結節,もしくは伝導系の孤立性障害;または心外膜冠動脈疾患(CAD)を表す。心筋症は常に症候性心不全に至るとは限らない。心筋症はしばしば特発性であり,拡張型うっ血性心筋症,肥大型心筋症,浸潤性拘束型心筋症に分類される。
症状と徴候
症状は,右室および左室が最初に影響を受けた程度によって異なる。重症度は,極めて多岐にわたり,通常,ニューヨーク心臓協会の心機能分類により分類される(心不全および心筋症: ニューヨーク心臓協会(NYHA)の心不全分類表 1: を参照)。重度の左室不全は肺水腫を惹起しうる(心不全および心筋症: 肺水腫を参照 )。
表 1 | ||||||||||||||||||||||||||
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左室不全において最も一般的な症状は,肺うっ血を反映した呼吸困難および低COを反映した疲労である。呼吸困難は通常労作中に発生し,安静により緩和される。心不全が悪化すると呼吸困難が安静時や夜間に発生することがあり,ときに夜間の咳嗽を引き起こす。呼吸困難は横になった直後または間もなくして発生し,一般的に起き上がると急速に緩和される(起座呼吸)。発作性夜間呼吸困難(PND)では,呼吸困難は就寝後数時間で発生して患者を覚醒させ,15〜20分間座位をとると緩和される。重度の心不全では,周期的な呼吸サイクル(チェーンストーク呼吸―肺の症状がある患者へのアプローチ: 視診を参照 )―短時間の呼吸数増加(過呼吸)とそれに続く短時間の呼吸停止(無呼吸)―が日中または夜間に発生しうる;突然の過呼吸相のため患者は睡眠から目覚めることもある。この呼吸は,過呼吸相の持続がわずか数秒と短く1分未満で消散する点でPNDと異なる。PNDは肺うっ血と関連し,チェーンストーク呼吸は低COと関連する。心不全では,睡眠時無呼吸(睡眠時無呼吸を参照 )などの睡眠時呼吸障害が一般的にみられ,心不全を悪化させることがある。脳血流量の著しい減少および低酸素血症は慢性的な易被刺激性を引き起こし,精神機能を障害する。
右室不全において,最も一般的にみられる症状は足関節部の腫脹および疲労である。ときに,患者は腹部または頸部に膨満感を感じる。肝うっ血は右上腹部の不快感を,胃腸のうっ血は食欲不振および腹部膨満を引き起こすことがある。
特異度の低い心不全症状には,末梢部位の低体温,体位性の浮遊感,夜間頻尿,および日中の排尿減少がある。骨格筋萎縮は重度の両心室不全の場合に生じる可能性があり,ある種の廃用や,サイトカイン産生増加と関連する異化の進展も反映しうる。顕著な体重減少(心臓悪液質)は予後不良の徴候で,高死亡率と関連する。
一般診察では,心不全を引き起こす,または悪化させる全身疾患の徴候が検出される(例,貧血,甲状腺機能亢進症,アルコール中毒,ヘモクロマトーシス)。
左室不全では,頻拍および頻呼吸が生じうる;重度の左室不全を呈する患者は,低酸素症および低脳灌流が原因で,呼吸困難やチアノーゼ,低血圧,錯乱や興奮を呈するようにみえることがある。中心性チアノーゼ(舌や粘膜など体温の高い部位を含む身体全体に発症する)は重度の低酸素血症を反映する。口唇,手指,および足指の末梢チアノーゼはO2抽出量増加を伴う低血流を反映する。力強いマッサージにより爪床の色調が改善するならば,チアノーゼは末梢性であると考えられる;チアノーゼが中心性であれば,局所血流が増加しても色調は改善しない。
にきびについての事実
左室収縮機能不全における心所見には,びまん性および持続性で側方に偏位した心尖拍動,聴診可能でときに触知可能な第3心音(S3)および第4心音(S4),ならびに第2心音(S2)の肺動脈弁成分(P2)亢進がある。僧帽弁逆流の全収縮期雑音が心尖に生じうる。肺所見には,吸気性の肺底部クラックルならびに,もし胸水が存在すれば,打診時の濁音および肺底部の呼吸音減弱がある。
右室不全の徴候には,足や足首の圧痛のない末梢圧痕浮腫(指で押すと明瞭で触知可能な痕跡が残り,ときにかなり深い),肝腫大(ときに拍動性で右の肋骨縁下方に触知可能),腹部膨隆および腹水,ならびに頸静脈圧の明らかな上昇(ときに坐位または立位でも明瞭なほど大きなa波またはv波を伴う,心疾患患者へのアプローチ: 正常な頸静脈波。を参照 図 1: )がある。重症例では,末梢浮腫は大腿部,さらには仙骨部,陰嚢部,下腹壁にも認められ,ときにさらに上方に拡がることもある。多発する重度浮腫は全身浮腫と呼ばれる。患者がどちらか決まった向きの側臥位をとることが多ければ,浮腫は非対称性となることがある。
肝うっ血に伴って,肝臓が触知可能なほど腫大したり圧痛を呈したりすることがあり,肝頸静脈逆流または腹部頸静脈逆流が検出されうる(心疾患患者へのアプローチ: 静脈を参照 )。前胸部の触診では右室拡大による左傍胸骨領域の挙上を検出することがあり,聴診では三尖弁逆流雑音または胸骨左縁に沿って右室のS3を検出しうる。
診断
臨床所見(例,労作性呼吸困難,起座呼吸,浮腫,頻拍,肺ラ音,S3,頸静脈怒張)は心不全を示唆するが,早期には明瞭ではない。同様の症状は,COPDまたは反復性肺炎から生じることもあれば,誤って高齢が原因であるとされることもある。心不全は,心筋梗塞,高血圧,もしくは弁膜異常の既往,または雑音のある患者では強く疑われ,高齢者や糖尿病患者での疑いは中等度である。
胸部X線,心電図,および心機能の客観的検査(典型的には心エコー検査)を行うべきである。血液検査は,B型ナトリウム利尿ペプチドを除き診断に用いられないが,原因および全身的な影響の同定には有用である。
心不全を示唆する胸部X線所見には,心陰影の拡大,胸水,大葉間裂内の体液,および後下肺野に走る水平のライン(カーリーBライン)がある。これらの所見は,慢性的な左房圧上昇および浮腫による小葉間中隔肥厚を反映している。上葉の肺静脈うっ血,および間質または肺胞の浮腫が認められることもある。側面像の心陰影の慎重な診察により,心室腔および心房腔の特異的な拡大が同定されうる。X線像は,別の診断(例,COPD,間質性肺線維症,肺癌)も示唆しうる。
心電図所見は診断的ではないが,異常な心電図,特に陳旧性MI,左室肥大,左脚ブロック,または頻拍性不整脈(例,頻脈性心房細動)を示すものでは,心不全の疑いを強め,その原因の同定に役立つことがある。
心エコー検査は,心腔径,弁膜機能,EF,壁運動異常,左室肥大,および心膜液の評価に役立てられる。心臓内血栓,腫瘍,および石灰化が,心臓弁,僧帽弁輪,大動脈壁の異常部分の中などに検出されうる。局所的または分節的な壁運動異常は潜在的な冠動脈疾患を強く示唆するが,斑状の心筋炎でも認められることがある。ドプラまたはカラードプラ心エコー検査は,弁膜異常やシャントを正確に検出する。ドプラによる僧帽弁通過血流や肺静脈血流の検査は,しばしば左室拡張機能不全の同定および定量に役立つ。左室EFを測定することで拡張機能不全(EF>0.40)と収縮機能不全(EF< 0.40)とを鑑別でき,これらは異なる治療を必要とする。三次元心エコー検査が重要となる可能性があるが,現在のところ専門施設でしか利用できない。
核医学画像診断も,収縮機能,拡張機能,陳旧性MI,誘発性虚血,冬眠心筋の評価に役立つことがある。心臓MRI検査では心構造の正確な画像が得られるが,常に利用できるとは限らず,より多額の費用もかかる。
推奨される血液検査にはCBC,血中クレアチニン,BUN,電解質(Mg,Caを含む),ブドウ糖,アルブミン,および肝機能検査がある。心房細動を呈する患者および特定の患者,特に高齢患者には,甲状腺機能検査が推奨される。心不全では,血清BNP濃度が高い;この所見は,臨床所見が不明瞭なときや他の診断(例,COPD)を除外する必要があるときに有用であると考えられる。特に,肺疾患および心疾患のいずれの既往も有する患者に有用となりうる。
心臓カテーテル法および冠動脈造影は,冠動脈疾患が疑われるとき,または診断および病因が不確かなときに適応となる。
心内膜生検は通常,浸潤性心筋症が強く疑われるときにのみ行われる。
予後
一般に,心不全患者は,その原因を修正できなければ予後不良である。心不全による初回入院から1年目の死亡率は約30%である。慢性心不全では,死亡率は症状および心室機能不全の重症度によって異なり,10〜40%/年の範囲となる。
心不全は通常,重度の代償不全の期間を挟みながら段階的に悪化し,最終的には死亡に至る。しかしながら,症状の悪化が先行せず,突発的で予測できない死亡が起きる場合もある。
終末期のケア: 患者および家族は全員が疾患の進行について説明を受けるべきである。患者によっては,生活の質の改善は生存期間の延長と同じくらい重要である。したがって,状態が悪化した場合の蘇生(例,気管内挿管,心肺蘇生)に関する患者の意思について明らかにすることは,特に心不全が重度のときに重要である。全ての患者に,症状は軽減すると安心させ,症状が著しく変化するときは早期に医療機関を受診するよう奨励すべきである。薬剤師,看護師,ソーシャルワーカー,および聖職者(既に機能している学際的なチームまたは疾患管理プログラムに参加している場合もある)の関与が終末期医療においては特に重要である。
治療
特定の障害(例,急性心筋梗塞,心室拍動数の増加を伴う心房細動,重度高血圧症,急性弁逆流)による心不全を有する患者,ならびに肺水腫(心不全および心筋症: 肺水腫を参照 ),重度の症状,新規発症の心不全,または外来治療に不応の心不全を有する患者では,早急な入院治療が必要である。過去に心不全と診断され,それが軽度増悪した患者は在宅で治療可能である。主要な目標は心不全に至る障害を診断して修正または治療することである。
短期の目標としては,症状および血行動態を改善すること,低カリウム血症,腎機能不全,および症候性低血圧症を回避すること,神経液性因子の活性化を修正することが挙げられる。長期の目標としては,高血圧症を修正すること,心筋梗塞およびアテローム硬化を予防すること,入院回数を減らすこと,生存率および生活の質を改善することが挙げられる。治療には,食事および生活習慣の変更,薬物(心不全および心筋症: 薬物を参照 ),ときに手術が必要となる。
食事性Naの摂取制限は体液貯留の制限に役立つ。全ての患者は,調理時の食塩使用をやめ,食卓に食塩を置かず,塩分の多い食品を控えるべきである;最重症患者では,減塩食品のみを摂取することでNaを1g/日未満に制限すべきである。毎朝の体重モニタリングはNaおよび水分貯留の早期検出に役立つ;もし体重が4.4kgを超えて増加したならば,患者自身が利尿薬の用量を調整することも可能であるが,体重が増加し続けたり症状が生じたりするようであれば医療機関を受診するべきである。粥状動脈硬化または糖尿病の患者は各自の障害に応じた適切な食事を厳守すべきである。肥満が生じる場合があり,これは常に心不全の症状を悪化させる;患者はBMIで21〜25を目指すべきである。
症状に合わせた定期的な軽い運動(例,歩行)が一般に推奨される。骨格筋の機能低下は機能的状態を悪化させるが,運動はこれを予防する;この方法が生存を改善するかは研究中である。急性増悪期には安静が適切である。
治療は患者に合わせて行い,原因,症状,および副作用を含む薬物に対する反応を考慮する。収縮機能不全と拡張機能不全とで治療はいくぶん異なるが,重複する部分もある。患者や家族は治療選択に参加するべきである。患者や家族には,服薬遵守の重要性,代償不全を警告する徴候,および症状緩和のための追加薬物の使用について指導するべきである。症例の一元管理,特に服薬遵守ならびに予定外の来院や救急搬送および入院の頻度をモニタリングすることで,介入が必要な局面を同定できる。心不全を専門とする看護師は,事前に設定されたプロトコールに従って教育,経過観察,用量調整を行う際にきわめて役立つ。多くの医療施設(例,専門外来クリニック)では,様々な分野の医療従事者(例,心不全を専門と� ��る看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,リハビリテーション専門家)を集学的治療チームまたは外来心不全管理プログラムに組み入れている。このような試みにより転帰を改善して入院を減少させることが可能で,最重症患者では非常に効果的である。
高血圧症,重度の貧血,ヘモクロマトーシス,コントロール不良の糖尿病,甲状腺中毒,脚気,アルコール中毒,シャーガス病,またはトキソプラズマ症の治療が成功すれば,患者は劇的に改善する可能性がある。広範な心室浸潤(例,アミロイドーシスにおける)の管理は依然として不満足な状況である。
手術: 特定の基礎疾患が認められるときには手術が適切であると考えられる。通常,心不全患者の手術は専門施設で実施するべきである。先天性または後天性の心内シャントは外科的縫合により治療できる。虚血を軽減するための冠動脈バイパスグラフト術は一部の虚血性心筋症患者に有用である。もし心不全が主に弁膜異常によるものであれば,弁修復術または移植を考慮する(弁膜異常を参照 )。原発性僧帽弁逆流症患者は,心筋機能不良が術後も継続する可能性のある,左室拡張に続発する僧帽弁逆流の患者よりも利益を得られる可能性が高い。手術は,心筋の拡大および損傷が不可逆的になる前に行うことが望ましい。
心臓移植(移植: 心臓移植を参照 )は,重度の難治性心不全を有し,他に生命を脅かす疾患のない60歳未満の患者に対する最適な治療法である。生存率は1年目で82%,3年目で75%である;しかしながら,ドナー待機中の死亡率は12〜15%に上る。ヒトの臓器提供は依然として少ない。左室補助装置は移植までの橋渡しとなるが,ごく一部の特定患者では恒久的に使用される場合もある。人工心臓はまだ実行可能な代替治療ではない。現在研究中の手術の選択肢には,拡張の進行を減少させる抑制装置の植込みおよび心室修復術と呼ばれる改良型の心室瘤切除術がある。力学的心筋形成術および拡大心筋部分切除術(バチスタ手術)はもはや推奨されない。
不整脈(不整脈および伝導障害も参照 ): 心不全における一般的な代償性変化である洞頻脈は,心不全治療が奏効すると通常は消失する。洞頻脈が消失しない場合は,関連する原因(例,甲状腺機能亢進症,肺塞栓症,発熱,貧血)を究明するべきである。もし原因を修正しても洞頻脈が持続するならば,β遮断薬の漸増投与を考慮するべきである。
禅にきびリムーバー
コントロール不良の心室拍動を伴う心房細動は治療しなければならない。β遮断薬は最適な治療法であるが,もし収縮機能が保存されているならば,心拍数を減少させるカルシウムチャネル拮抗薬を慎重投与してもよい。ジゴキシンまたは低用量アミオダロンの追加投与が一部の患者には有用でありうる。もし心不全が軽度であれば,洞調律への変換は心拍数の調節よりも優れているとはいえないが,一部の心不全患者では洞調律になることによって利益が得られる。もし頻脈性心房細動が薬物に反応しなければ,特定の患者には,房室結節の完全または部分的なアブレーションを併用する恒久的ペースメーカー植え込みを考慮する場合がある。
散発性心室性期外収縮は心不全で一般的にみられ,特異的な治療を必要としない。心不全に対して最適な内科的治療が行われたにもかかわらず存続する持続性心室頻拍には抗不整脈薬が必要となる場合がある。左室収縮機能不全が認められるときには,他の抗不整脈薬は有害な催不整脈作用を示すため,アミオダロンおよびβ遮断薬が最適な薬物である。アミオダロンはジゴキシン濃度を上昇させるため,ジゴキシンの用量は1⁄2に減量するべきである。アミオダロンの長期使用では副作用が生じうるため,可能なときには低用量(200〜300mg,1回/1日経口投与)を用いる;肝機能および甲状腺刺激ホルモンの血液検査は6カ月毎に行い,もし胸部X線が異常であるか呼吸困難が著しく悪化していれば,胸部X線および肺機能検査を毎年行って肺線維症を確認する。持続する心室性不整脈には,アミオダロン400mg,1回/1日の経口投与が必要となりうる。
余命の見込みが本来良好な患者において,症候性で持続する心室頻拍(特に失神を起こす場合)もしくは心室細動があるかまたは心筋梗塞後のEFが0.30未満である場合は,植込み型除細動器(ICD)が推奨される。
難治性心不全: 治療後も症状はしばしば持続する。理由としては,治療にもかかわらず持続する基礎疾患(例,高血圧症,虚血,弁逆流),不十分な心不全治療,服薬不遵守,食事性Naまたはアルコールの過剰摂取,および診断されていない甲状腺疾患,貧血,または併発する不整脈(例,頻脈性心房細動,間欠性心室頻拍)の存在がある。また,他の障害を治療するために使用される薬物が心不全治療を妨げることもある;NSAID,糖尿病用のチアゾリジンジオン類(例,ピオグリタゾン),および短時間作用性のジヒドロピリジン系または非ジヒドロピリジン系カルシウムチャネル拮抗薬は心不全を悪化させる恐れがあるので,通常は使用するべきでない。両心室ペーシングは,心不全,重度の収縮機能不全,およびQRS幅延長を呈する患者の症状を緩和す る。
薬物
症状緩和のための薬物には利尿薬,硝酸薬,ジゴキシンがある。ACE阻害薬,β遮断薬,アルドステロン受容体拮抗薬,およびアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は長期管理に有効であり,生存を改善する。収縮機能不全と拡張機能不全とでは異なる戦略が用いられる。重度の拡張機能不全を呈する患者は血圧や血漿量の低下に十分に耐えられないため,利尿薬や硝酸薬は低用量で用いるべきである。肥大型心筋症患者(心不全および心筋症: 肥大型心筋症を参照 )では,ジゴキシンは有効でなく,有害となりうる。
利尿薬: 利尿薬(動脈高血圧: 高血圧に対する経口利尿薬を参照 表 5: )は症候性の収縮機能不全の患者全員に投与される;用量は,体重が安定し症状が緩和される最低用量に調節する。ループ利尿薬が望ましい。フロセミドが最も頻用されており,20〜40mg,1日1回で経口投与を開始し,もし反応および腎機能に基づいて必要であれば120mg,1日1回(または60mg,1日2回)まで増量する。ブメタニドは代替薬である。難治例では,フロセミド40〜160mg静注,エタクリン酸50〜100mg静注,ブメタニド0.5〜2mg経口もしくは0.5〜1.0mg静注,またはメトラゾン2.5〜10mg経口が相加作用を示すことがある。ループ利尿薬(特にメトラゾンと併用時)は,低血圧症,低ナトリウム血症,低マグネシウム血症,および重度の低カリウム血症を伴う循環血液量減少を引き起こすことがある。
血清電解質は,投与開始時は毎日(利尿薬が静脈内投与されるとき),その後は随時,特に用量増加後にモニタリングする。K保持性利尿薬であるスピロノラクトンまたはエプレレノン(いずれもアルドステロン受容体拮抗薬)を追加して,高用量ループ利尿薬のK喪失作用を相殺できる;特にACE阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬が投与されているときは高カリウム血症が起こりうるので,電解質を引き続きモニタリングしなければならない。サイアザイド系利尿薬は,高血圧が認められなければ通常は用いない。
信頼できる患者には,体重増加時または末梢浮腫増悪時に必要に応じて利尿薬を追加で服用するように指導する。もし体重増加が続くならば,早急に医療機関を受診するべきである。
ADH拮抗薬の実験的投与では,水分排泄および血清Na濃度が増加し,低カリウム血症および腎機能不全が起こる頻度は低下する。これらは現行の利尿薬療法の補助療法として有用となる可能性がある。
ACE阻害薬: 禁忌(例,血漿クレアチニン> 2.8mg/dL[250μmol/L],両側腎動脈狭窄,片腎の腎動脈狭窄,またはACE阻害薬による血管性浮腫の既往)でなければ,収縮機能不全患者全員にACE阻害薬を経口投与する。
ACE阻害薬は,アンジオテンシンⅡの産生およびブラジキニンの分解を抑制し,これらは交感神経系,内皮機能,血管緊張,および心筋機能に影響を及ぼすメディエーターである。血行動態作用には,動脈および静脈の拡張,安静時および労作時の持続的な左室充満圧低下,全身血管抵抗の低下,心室リモデリングに及ぼす好ましい作用がある。ACE阻害薬は生存期間を延長し,心不全による入院を減らす。粥状動脈硬化および血管障害の患者では,これらの薬物は心筋梗塞および脳卒中のリスクを低下させうる。糖尿病患者では腎症の発症を遅らせる。したがって,ACE阻害薬は拡張機能不全およびこれらの障害のいずれかを有する患者に用いられる。
開始用量は低用量とすべきである(血圧および腎機能に応じて目標用量の1⁄4〜1⁄2);用量は,忍容性に応じて2〜4週間かけて漸増して調節し,恒久的に継続する。代表的な薬物の通常標的用量にはエナラプリル10〜20mg,1日2回,リシノプリル20〜30mg,1回/1日,ラミプリル5mg,1日2回,カプトプリル50mg,1日2回などがある。
降圧作用(低ナトリウム血症または循環血液量減少のある患者でより著明)が問題となる場合は,併用利尿薬の用量を減量することでこの作用をしばしば最小限に抑えられる。ACE阻害薬はしばしば,糸球体輸出細動脈の拡張による中等度の可逆的な腎不全を引き起こす。クレアチニンが初期に20〜30%増加することは薬物を中止する理由にはならないが,より緩徐な増量,利尿薬の減量,またはNSAIDの回避が必要となる。アルドステロンの作用が減弱するため,特にK補充中の患者でK貯留が起こりうる。咳嗽は5〜15%の患者に発生し,これは恐らくブラジキニンが蓄積するためであるが,他の原因も考慮すべきである。ときに発疹または味覚異常が起こる。血管神経性浮腫はまれであるが生命を脅かす恐れがあるので,このクラスの薬物の禁� �である。代わりにアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬が使用されることがあるが,まれに交差反応が報告される。いずれの薬物も妊娠中は禁忌である。
血漿電解質や腎機能は,ACE阻害薬の開始前,1カ月目,および顕著な用量増加または病態変化の度に測定するべきである。もし急性疾患による脱水または腎機能不良が発生するならば,ACE阻害薬を一時的に中止する必要がある。
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB): ARBがACE阻害薬よりも優れているとは証明されていないが,咳嗽および血管性浮腫の発生頻度は低いようである;ARBは,このような副作用によりACE阻害薬の使用が禁じられるときに使用できる。ACE阻害薬およびARBが慢性心不全に同等の効果を示すかは不明であり,その最適用量はいまだ研究中である。通常の経口標的用量は,バルサルタン160mg,1日2回,カンデサルタン32mg,1日1回,ロサルタン50〜100mg,1日1回である。ARBおよびACE阻害薬の導入,漸増,モニタリングの方法は同様である。ACE阻害薬と同様,ARBは可逆的な腎機能不全を引き起こしうる。急性疾患による脱水または腎機能不良が生じた場合は,ARBの一時的な中止が必要となりうる。
症状が持続し入院を繰り返す心不全患者に対しては,ACE阻害薬,β遮断薬,および利尿薬にARBの追加を考慮するべきである。このような併用療法では,血圧,血漿電解質,および腎機能のモニタリング回数を増やす必要がある。
アルドステロン受容体拮抗薬: アルドステロンはレニン-アンジオテンシン系に非依存的に産生されるため,その副作用は最大量のACE阻害薬およびARBを用いたとしても完全には抑えられない。したがって,アルドステロン受容体拮抗薬であるスピロノラクトンおよびエプレレノンは,突然死による死亡も含めて死亡率を減少させうる。一般に,重度の慢性心不全を呈する患者にはスピロノラクトン25〜50mg,1回/1日が経口投与され,MI後左室EFが30%未満の急性心不全患者にはエプレレノン10mg,1回/1日が経口投与される。K補充は中止するべきである。血清Kおよびクレアチニンは,開始後4〜6週間は1〜2週毎に検査し,用量変更後も検査を行うべきである;もしKが5.5〜6.0mEq/Lにあれば投与量を減らし,Kが6.0mEq/Lを超えるか,クレアチニンが2.5mg/dL(220μmol/L)を超えて上昇するか,または高カリウム血症による心電図変化が認められるならば中止する。
β遮断薬: β遮断薬は,(喘息,第2度もしくは第3度房室ブロック,または不耐の既往による)禁忌が他にない限り,高齢者を含むほとんどの患者の慢性収縮機能不全や,高血圧症および肥大型心筋症における拡張機能不全に対してACE阻害薬に追加して投与できる重要な薬物である。これら薬物のいくつかは,重度の症状を有する患者を含む慢性収縮機能不全患者において左室EF,生存,および他の主要心血管転帰を改善する。β遮断薬は心拍数を低下させ,拡張期充満時間を延長し,心室弛緩を恐らく改善するため,拡張機能不全に特に有用である。
急性代償不全の間は,β遮断薬は慎重に使用しなければならない。これらの薬物は,患者の病態が安定し,体液貯留の徴候がほとんど認められなくなるまで開始しない;既にβ遮断薬を服用している患者の場合,投与を一時的に中断するか,または減量する。
低用量(目標1日量の1⁄8〜1⁄4)から開始し,忍容性に応じて6〜8週間かけて漸増する。通常の経口標的用量は,カルベジロール25mg,1日2回(85kg以上の患者には50mg,1日2回),ビソプロロール10mg,1日1回,メトプロロール50〜75mg,1日2回(酒石酸塩)または200mg,1日1回(徐放性コハク酸塩)である。第3世代の非選択的β遮断薬であるカルベジロールは,α遮断作用および抗酸化作用を有する血管拡張薬でもある;これは好ましいβ遮断薬であるが多くの国ではより高価である。一部のβ遮断薬(例,ブシンドロール,キサモテロール)は有益ではないようであり,有害となる恐れもある。
初期治療後に,心拍数および心筋O2消費は低下し,1回拍出量および充満圧は変化しない。心拍数の減少に伴い,拡張機能は改善する。心室充満はより正常なパターンに回復し(拡張早期に増加),拘束性パターンの程度が軽くなる。多くの患者では,6〜12カ月後に心筋機能の改善がある程度認められる;EFおよびCOは増大し,左室充満圧は低下する。運動能力は改善する。
もしβ遮断薬の急性陰性変力作用により心機能低下および体液貯留が起こるならば,β遮断薬開始時に利尿薬の用量を一時的に増加する必要がある。そのような症例では,β遮断薬の用量の緩徐な漸増が正当と考えられる。
血管拡張薬: ヒドララジン+硝酸イソソルビドは(通常,顕著な腎機能不全が原因で)ACE阻害薬またはARBに真に不耐容の患者に有用であるが,この併用療法の長期的有益性はわずかである。血管拡張薬として,これらの薬物は顕著な腎障害を引き起こさずに血行動態を改善し,弁逆流を軽減して,運動能力を向上させる。ヒドララジンは25mg,1日4回から経口投与を開始し,3〜5日毎に目標総用量である300mg/日まで増量するが,多くの患者は低血圧を理由に200mg/日を超える量には耐えられない。硝酸イソソルビドは20mg,1日3回(12時間の無硝酸時間を挟む)から経口投与を開始し,目標とする40〜50mg,1日3回まで増量する。低用量(臨床でしばしば用いられる)が長期的に有益かは不明である。一般に,血管拡張薬はACE阻害薬によって代用されており,ACE阻� ��薬は使用しやすく,忍容性も通常良好で,より高い有益性も証明されている。
硝酸塩は単独で心不全の症状を緩和できる;急性症状には必要に応じてニトログリセリンスプレーを,また夜間呼吸困難にはパッチ薬を使用するように患者に指導することがある。心不全および狭心症の患者において,硝酸塩は安全かつ有効で,忍容性も良好である。
カルシウムチャネル拮抗薬など他の血管拡張薬は収縮機能不全の治療には用いない。短時間作用型のジヒドロピリジン系(例,ニフェジピン)および非ジヒドロピリジン系(例,ジルチアゼム,ベラパミル)は有害である。しかしながら,アムロジピンやフェロジピンの忍容性は良好であり,心不全患者および合併する狭心症や高血圧症には有用でありうる。いずれの薬物も末梢浮腫を引き起こしうる;まれに,アムロジピンは肺水腫を引き起こす。フェロジピンは,グレープフルーツジュースのチトクロムP-450代謝阻害作用により血漿濃度の大幅な上昇および副作用の著しい増加を来すため,グレープフルーツジュースとともに摂取すべきでない。拡張機能不全患者ではカルシウムチャネル拮抗薬を必要に応じて使用し,高血圧症または� �血を治療したり,心房細動において心室拍動を制御することがある。ベラパミルは肥大型心筋症に使用される。
ジギタリス製剤: ジギタリス製剤はNa-Kポンプを阻害する(Na+,K+-ATPase)。結果として,これらの薬物により弱い陽性変力作用が生じ,交感神経の活動性が減弱し,房室結節が遮断され(心房細動における心室拍動数の減少または洞調律におけるPR間隔の延長),血管収縮が減弱して,腎血流が改善する。ジゴキシンは,最も一般的に処方されるジギタリス製剤である。ジゴキシンは腎臓から排泄される;腎機能正常患者における消失半減期は36〜40時間である。ジギトキシンは主に胆汁中に排泄される。これは腎機能低下患者に対する代替薬であるが,処方頻度は低い。
ジゴキシンの延命効果は証明されていないが,利尿薬およびACE阻害薬と併用時に症状の制御に役立つことがある。ジゴキシンは,拡張終期左室容量が増大してS3が聴取される患者において最も有効である。ジゴキシンを突然中止すると,入院率が上昇し,症状が悪化する恐れがある。毒性は,特に腎機能不全患者,および恐らくは女性において懸念される。これらの患者,ならびに高齢者,除脂肪体重の低い患者,アミオダロンを併用している患者では,低用量を経口投与する必要がある;80kgを超える患者には高用量を投与する必要がある。一般に,従来よりも低用量で使用されており,ジゴキシンのトラフ濃度(投与8〜12時間後)は1〜1.2ng/mLまで許容される。処方方法は医師および国によって大きく異なる。
腎機能正常患者では,ジゴキシン(年齢,性別,および体格に応じて0.125〜0.375mg,1回/1日経口投与)は約1週間で十分なジギタリス飽和に達する(半減期の5倍)。ジゴキシン0.5mgに続いて8時間後および16時間後に0.25mgを静注するか,またはジゴキシン0.5mgに続いて8,16,および24時間後に0.25mgを経口投与することで,より急速にジギタリス飽和に達することが可能である。
ジゴキシン(および全てのジギタリス配糖体)の治療濃度域は狭い。最も重要な毒性作用は生命を脅かす不整脈である(例,心室細動,心室頻拍,完全房室ブロック)。両方向性心室頻拍,心房細動存在下での非発作性接合部性頻拍,および高カリウム血症はジギタリス中毒の重篤な徴候である。悪心,嘔吐,食欲不振,下痢,錯乱,弱視,およびまれに眼球乾燥症が起こりうる。もし低カリウム血症または低マグネシウム血症(しばしば利尿薬使用による)が認められるならば,低用量および低血清濃度でも毒性が生じることがある。異常を可能な限り予防できるよう,利尿薬およびジゴキシンを服用中の患者では電解質濃度を頻繁にモニタリングしなければならない;K保持性利尿薬が有用であることがある。
ジギタリス中毒が生じたときには,その薬物は中止するべきである;電解質異常は修正するべきである(異常が重度で毒性が急性の場合には静注)。重度の毒性を示す患者は監視ユニットに収容し,もし不整脈が認められるか,または顕著な過剰摂取に5mEq/Lを超える血清Kが伴うならば,ジゴキシン免疫Fab(ヒツジ抗ジゴキシン抗体フラグメント)を投与する。この薬物は植物摂取による配糖体の毒性にも有用である。用量は定常状態の血清ジゴキシン濃度または摂取された総量に基づく。心室性不整脈はリドカインまたはフェニトインを用いて治療する。心室拍動数の減少を伴う房室ブロックには一時的に経静脈ペースメーカーが必要となることがある;イソプロテレノールは心室性不整脈のリスクを増加させるため,禁忌であ る。
他の薬物: 心不全では種々の陽性変力作用薬が評価されているが,ジゴキシン以外の薬物では死亡リスクが上昇する。外来患者に変力作用薬(例,ドブタミン)を定期的に静注すると死亡率が上昇するので,現在はこれは推奨されていない。現在研究中の薬物には,Ca感受性増強薬,サイトカイン拮抗薬,エンドセリン拮抗薬,マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害薬,および免疫調節薬がある。
肺水腫
肺水腫は,肺静脈性肺高血圧および肺胞充満を伴う重度の急性左室不全である。所見は,重度の呼吸困難や,発汗,喘鳴,ときに泡沫状で血液の混じった喀痰である。診断は臨床的に行われ,X線も使用される。治療は,O2,静注の硝酸薬,利尿薬,モルヒネ,ときに気管内挿管や人工呼吸を用いて行われる。
もし左室充満圧が急激に上昇すると,血漿成分は肺毛細血管から間質組織および肺胞へ急速に移動し,肺水腫が起こる。症例の約1⁄2は急性冠虚血に起因し,1⁄4は高血圧症による拡張機能不全性心不全など基礎にある重大な心不全の代償不全に起因する;残りは,不整脈,急性弁膜異常,またはしばしば静脈内輸液が原因となる急性の体液量過剰から生じる。服薬または食事の不遵守がしばしば関与する。
症状と徴候
患者は極度の呼吸困難,不穏,および窒息感を伴う不安を呈する。血痰を伴う咳嗽,蒼白,チアノーゼ,著明な発汗が一般的にみられる;一部の患者は口腔に泡沫を生じる。明らかな喀血はまれである。脈拍は速く低容量であり,血圧は一定しない。著明な高血圧は心予備能が大きいことを示す;低血圧は悪い徴候である。吸気性の捻髪音は両肺野の前胸部および背部で広範囲に聴取される。著明な喘鳴(心臓喘息)が生じうる。努力呼吸の呼吸音が大きく,心臓の聴診がしばしば困難となる;重合奔馬調律―第3心音(S3)および第4心音(S4)の重なり―が認められる場合がある。右室不全の徴候(例,頸静脈怒張,末梢浮腫)がみられることがある。
診断と治療
肺性心(後述参照)が存在する場合は,COPDの増悪が,左室不全による肺水腫,さらには両心室不全による肺水腫に類似する可能性がある。肺水腫は心疾患の既往のない患者で主症状となることもあるが,そうした重度の症状を伴うCOPD患者はCOPDの既往歴を有する(ただし,呼吸困難が重度で患者がそれを話せないことがある)。胸部X線を即時撮影すると通常は診断的となり,著明な間質性浮腫が認められる。血清脳(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)濃度のベッドサイド測定(肺水腫では上昇;COPD増悪では正常)は有用である。心電図,パルスオキシメトリー,血液検査(心マーカー,電解質,BUN,クレアチニン,および重症患者の場合,動脈血ガス[ABG])が行われる。低酸素血症が重度となる可能性がある。CO2貯留は二次� �低換気の後期にみられる予後不良の徴候である。
初期治療には,非再呼吸式マスクによる100%O2投与,起座位,フロセミド(0.5〜1.0mg/kg静注),ニトログリセリン(0.4mg,5分毎に舌下投与,その後10〜20μg/分で点滴静注,必要に応じて最大300μg/分または収縮期血圧90mmHgまで5分毎に10μg/分ずつ漸増),モルヒネ(1〜5mg静注,単回または2回投与)がある。もし低酸素症が顕著であれば二相性陽圧換気(BiPAP)を用いた非侵襲的な換気補助が有用であるが,CO2貯留や昏蒙が認められるならば気管内挿管および補助換気が必要である。
特異的な治療の追加は病因により異なる:急性心筋梗塞または他の急性冠動脈症候群には血栓溶解療法やステント併用または非併用の直接経皮的冠動脈形成術,重度高血圧には血管拡張薬,上室性頻拍または心室性頻拍には直流カルディオバージョン,頻脈性心房細動にはβ遮断薬静注,ジゴキシン静注,慎重なカルシウムチャネル拮抗薬静注による心室拍動数低下(カルディオバージョンが望ましい)を行う。BNP(ネシリチド)静注および新規変力作用薬などの他の治療は,現在研究中である。急性MI患者では肺水腫発症前の体液状態は通常は正常なので,利尿薬は慢性心不全患者の場合よりも有用性が低く,低血圧を誘発しうる。もし血圧低下またはショックが起こるならば,ドブタミン静注および大動脈内バルーンポンプ(カウンターパルセーション)が必要となりうる(ショックおよび輸液蘇生術: 予後と治療を参照 )。
いったん患者が安定化すれば,長期心不全治療は前述の通りである。
最終改訂月 2005年11月
最終更新月 2005年11月
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