前立腺がん手術体験記
前立腺がん関連ーその2ー
(Medical Tribuneなどから)
(2005年1月~12月)
前立腺癌の検出に新たな方法 遺伝子再配列の同定可能に[2005年12月15日 (VOL.38 NO.50) ]
独自の検出方法を利用した新研究により,前立腺癌の発生と進行に関与する遺伝子再配列の同定が可能になった。ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)病理学のArul Chinnaiyan博士らは,ユーイング肉腫(比較的まれな骨腫瘍)における発癌遺伝子再配列に関連付けられていた 2 つの遺伝子ETV1とERGが,前立腺癌における重要な発癌遺伝子であるとScience(2005; 310: 644-648)に発表した。詳細な分析により,これら遺伝子再配列がどのような機序で発癌性の原因になるのかが示されている。
上皮細胞由来癌で初めて説明
今回の研究は,体腔の内層である上皮細胞に由来する癌において,遺伝子の非無作為再発性の遺伝子再配列が発生することを初めて証明した。これまで同再配列は,白血病,リンパ腫,軟組織肉腫にのみ発生すると考えられていた。遺伝子断片がDNAのある部分から別の部分に移動する遺伝子再配列は,転座と呼ばれており,おそらく遺伝子発現(遺伝子のスイッチがオンあるいはオフ)に影響する。遺伝子転座は遺伝子発現に劇的な影響を与える。転座の有名な例としては,BCR遺伝子とABL遺伝子の融合がある。BCR-ABL融合遺伝子は,慢性骨髄性白血病の発症原因となる。これまで前立腺癌などの上皮癌では,このような遺伝子変異は知られていなかった。この研究のプログラム責任者でテキサ� �大学保健科学センター(テキサス州サンアントニオ)のJacob Kagan博士は「前立腺癌における遺伝子変異の研究は難しい。そのため,再発性の非無作為遺伝子再配列を明確に同定することができなかった。今回の知見は,同様の機序が乳癌,肺癌,結腸癌など他の上皮癌にも関与している可能性を示唆する重要なものである」と述べている。
逸脱した遺伝子を探す
Chinnaiyan博士らは,マイクロアレイのデータセットを分析して,前立腺癌細胞の変異遺伝子を探索した。マイクロアレイ分析は,細胞内の全遺伝子発現を同時に測定する方法である。大量のマイクロアレイデータを調べるために,同博士らは癌に関連するおもな過剰発現遺伝子を選別する「癌はずれ値特性分析(COPA)」と呼ばれる革新的な段階的方法を開発した。COPAは大量のマイクロアレイデータを取り込み,はずれ値つ� ��り前立腺癌組織中で発現する通常の遺伝子プロフィールに比べてかなり逸脱した遺伝子を探す。COPAデータを用いて,研究者は 2 つの融合遺伝子,TMPRSS2-ERGとTMPRSS2-ETV1を同定した。これら遺伝子は,前立腺と特異的に関連するTMPRSS2遺伝子がそれぞれERGあるいはETV1遺伝子に融合することにより形成された。
他の癌研究にも有望
NCIの癌バイオマーカー研究プログラムの責任者で,早期検出研究ネットワーク(EDRN)の所長でもあるSudhir Srivastava博士は「前立腺癌中に融合遺伝子が発見されたことは,癌の検査と早期検出,分子標的の開発に新しい未研究分野を創出した。この種の研究は,EDRNの革新的かつ先見性のある研究の実例である」と述べている。過去の症例221例(腫瘍167例と良性前立腺組織54例の標本)を分析したCOPAから,ERGまたはETV1が腫瘍標本167例中95例(57%)で過剰発現していたが,良性前立腺組織ではいずれも過剰発現していなかった。ミシガン大学の研究室で前立腺癌組織22例の標本を調査したところ,20例(91%)がERGあるいはETV1の過剰発現とTMPRSS2遺伝子との融合を示しており,ERGあるいはETV1がTMPRSS2遺伝子と並ぶことにより,これら遺伝子配列が過剰発現することが示唆された。筆頭研究者でEDRNの主任研究員でもあるChinnaiyan博士は「今回の発見は前立腺 癌の疾患過程の理解と,その過程を停止させる治療法の開発に重要な関係があるかもしれない」と述べている。これらの発見は,上皮腫瘍における非無作為再発性遺伝子再配列が他の癌研究の発展にもつながる可能性を初めて証明した。しかし,実際の検出技術や治療法を開発する前に,より多くの組織についてこれらの結果を確認しなければならない。
前立腺癌密封小線源療法で治癒率向上 [2005年12月15日 (VOL.38 NO.50) ]
Ray Harvey氏(42歳)は,前立腺癌の家族歴があったとはいえ,悪性前立腺癌と診断されたときは,やはりショックだった。定期健康診断で前立腺癌スクリーニングを受け,癌であることがわかった同氏は「父も祖父も前立腺癌だったので覚悟はしていたが,60歳くらいで発症するものだと思っていた」と語っている。幸い,現在では治療の進歩と高感度の画像化技術のお陰で,同氏のような癌でも90%が治癒する。
照射線量を抑制できる
Harvey氏の治療を担当したミシガン大学総合癌センターとプロビデンス病院Assarian癌センター(ともにアナーバー)放射線腫瘍学のPatrick W. McLaughlin臨床教授は「現在では優れた治療法があり,早期発見・早期治療により90%の患者が治癒する。次の目標は90%の患者を副作用や長期合併症なしに治療することだ」と述べている。Harvey氏は集中治療の 1 つである密封小線源療法を選択した。同療法では前立腺内に高線量の放射線を放出する極小ビーズを埋め込み,癌細胞を死滅させる。McLaughlin教授は「前立腺内にこのビーズを埋め込めば,癌細胞には高線量を照射でき,前立腺の周囲組織には,ほとんど放射線が及ぶことなく治療できる。そのため,癌を治療し,かつ照射線量を抑えるという目標を同時に達成できる」としている。ビーズの埋め込みは静注用の針と同等の細針で,超音波とX線ガイド下で埋め込み位置を特定しながら行う。埋め込み後,MRIやCTスキャンにより,前立腺と近傍の正常組織への照射線量をミリ単位で確認できる。
前立腺底の視覚化が鍵
McLaughlin教授は「ここ数年で治療後のQOLを大きく改善できるようになった背景には,画像技術の進歩がある。� ��なる組織を差別化して,照射線量を制限できるようになった。われわれの調査と客観解析が示すように,(放射線照射による)随伴症状と長期の機能変化との間には明白な相関が認められる」と述べている。Harvey氏の治療には,McLaughlin教授らが開発した最新画像技術により,放射線療法をより良好に施行できる方法が用いられた。前立腺底をより鮮明に同定することで,勃起機能をつかさどる血管への放射線照射を回避できる。同教授は,この血管束温存放射線療法を,前立腺全摘術において神経束温存法が進歩し,術後の性機能を維持できるようになったことになぞらえている。
正確な埋め込みでQOL改善
前立腺癌と診断された患者が直面するジレンマの 1 つに,数ある治療法のなかからどれを選択するかがある。これまでの研究では,生存面での恩恵はいずれの治療法でも大差がなく,ほとんどの患者は副作用を考慮したうえで治療法を選択している。McLaughlin教授は「現在のところ,手術,外照射放射線,密封小線源療法のいずれにも副作用は伴う。しかし,長期の副作用はいずれの治療法でも劇的に改善されてきた。前立腺下の組織に放射線を照射すれば長期的な問題が発生しうることは,かなり以前からわかっていた。こうした組織への照射を回避・低減する研究が開始されてから,副作用と長期の影響を劇的に改善できるようになってきている。おそらく,これが前立腺癌治療における最も有望な進歩だろう」と述べている。治療直後,Harvey氏は若干の不安を感じていたが,現在では前 立腺癌の治療を受けたことすら忘れるほどになったと説明。「治療前とほとんど変わらない。排尿も,性交も,歩いたり話したりするのも,以前と同じようにできる。尿失禁もないし,すべてが以前と同じだ。時々,体の動かし方によっては,ビーズが入っているんだな,そこに何かされたんだなという感じはある。治療を受けたのを思い出すのは,そのときくらいだ」と述べている。米国癌協会(ACS)によると,米国で2005年に前立腺癌と診断される患者は約23万2,000人で,そのうち約 3 万人が癌死すると見込まれている。死亡を回避するには早期発見が必須である。McLaughlin教授は「放射線科医として,よく『癌はなおるものですか』との質問を受けるが,前立腺癌に関しては,面と向かって治ると断言できる。その鍵はスクリーニングの在り方で,それにより,以前よりも前立腺癌を早期に発見できるようになった。さらに,最新治療により早期癌の90%が治癒している」と述べている。
リスク別の検診で早期発見を
現在では,リスク別のスクリーニング勧奨がなされている。例えばあるガイドラインは,アフリカ系米国人のスクリーニングは早期に行うべきとしており,Harvey氏もこれに従い早期診断を受けた。スクリーニング方法には直腸指診や,血液検査による前立腺特異抗原(PSA)の測定がある。PSA は前立腺癌が存在するとしばしば血中濃度が上昇する蛋白質マーカーである。1 年ごとのスクリーニングを開始する年齢は,以下のようにリスク別の勧奨がなされている。
(1)平均的なリスクの男性:50歳
(2)アフリカ系米国人:45歳
(3)第 1 親族(父親,兄弟,息子)が前立腺癌である男性:45歳
(4)第 1 親族内に 2 人以上の前立腺癌患者がいる男性:40歳
高再発リスク前立腺癌の生化学的再発抑制に放射線療法が有効[2005年12月15日 (VOL.38 NO.50) ]
テキサス大学保健科学センター(テキサス州サンアントニオ)放射線腫瘍学・泌尿器科学のGregorySwanson准教授らは,前立腺癌手術後の再発リスクが高い患者にアジュバント放射線療法を施行し生化学的再発率を50%低下できたと米国治療放射線・腫瘍学会(ASTRO)第47回年次集会の基調講演で報告した。
他の生存率は有意差ない
Swanson准教授らは,前立腺癌手術後の病理所見で被膜外浸潤,断端陽性,精�浸潤のいずれか,もしくは複合を確認した425例を,手術後16週間以内に60~64Gyの放射線療法を行う群と観察群とにランダム化割り付けした。10年間のフォローアップ後の転移なし生存率(主要エンドポイント)は,放射線療法群が71%,観察群が63%で,有意差は認められなかった。また,全生存率にも両群間で有意差は� ��かった(74%対66%,P=0.16)。しかし,10年後の生化学的再発なし生存〔前立腺特異抗原(PSA)値0.4ng/mL未満を維持と定義〕に関しては,観察群では210例(26%)であったのに対し,放射線療法群では214例(52%)と,有意(P<0.001)に改善された。さらに,生化学的再発までの期間の中央値は,放射線療法により3.1年から10.3年に延長された。治療期間中の尿路機能障害と軟便の発生は,放射線療法群で有意に悪化したが,5 年後のQOLに両群間で有意差は認められなかった。また,今回の検討では,放射線療法の施行でアンドロゲン除去療法が不要になった例もあり,適用患者においても施行を2.5年遅らせることができた。
同准教授は「進行前立腺癌の再発リスク低下にアジュバント療法が有効であることが確認されたのは,今回の研究が初めてで,今のところ唯一である。放射線療法は前立腺癌の標準治療として検討されるべきである」と結論。さらに「今回の研究は1980年代に計画されたもので,同様の患者に現在適用されている約70Gyよりも放射線量が低い。現在のように線量を70Gyにしたり,放射線と化学療法を併用していたら,放射線療法の有効性をさらに高めることができたはずである」と述べた。
ASTROの評議委員長でミシガン大学(ミシガン� ��アナーバー)放射線腫瘍学のTheodore Lawrence博士は,報道陣に対して「今後の臨床の在り方を大きく変える所見である。放射線療法は進行前立腺癌に有効なのか否かがこれまで議論されてきたが,今回,Swanson准教授らの研究と,同様の結果が得られた欧州からのもう 1 つの知見がそれに答を出した」とコメントした。
~前立腺癌再発マーカー~PSA値が今なお最も有用[2005年11月24日 (VOL.38 NO.47)]
前立腺特異抗原(PSA)の血中濃度による前立腺癌リスクの予測精度を疑う声が最近聞かれるが,ジョンズホプキンス大学(ボルティモア)Brady泌尿器科学研究所臨床講師のStephen J. Freedland博士らは,前立腺癌により根治的前立腺摘除術を受けた患者2,000例以上の解析の結果,術後の癌再発を最も的確に予測できたのはPSAであったと,Journal of Urology(2005; 174: 1276-1281)に発表した。
前立腺の健康状態の指標に
今回の研究では,前立腺の摘出前に高PSA値であった男性は,進展度,摘出組織における癌の異型度,前立腺外への癌細胞浸潤率のいずれも有意に高いことが確認された。さらに,術後のPSA上昇は,術前PSAが低い男性でも術後の癌再発リスクの増大と有意に相関していた。Freedland博士は「今回の知見は,前立腺摘出前のPSA値が術後の癌再発リスクと有意に相関していることを示しており,現行の前立腺癌マーカーのなかでは,今もなおPSAが最も有用であるという考えを支持するもので,PSAが現在も十分に通用することを明確に示している」と述べている。PSAは前立腺細胞で産生される蛋白質で,癌の存在によりその値は上昇する可能性がある。したがって,PSA値が高いほど, 前立腺癌に罹患している可能性も高くなる。また,一般的にPSA値が高いほど,悪性の癌の存在をより強く示している。同博士は「PSA値は,特定の時期の患者の前立腺の状態を医師に知らせる指標であるため完ぺきとは言い難いが,これまでに見出されたマーカーのなかでは最も優れている」と指摘。「これまでPSA値は,スクリーニングツールとして望ましいものを提供するだけでなく,進行癌を早期に発見し,転移の危険を減らすことができた」と付け加えている。
PSA上昇速度はさらに精度が高い
今回の研究では,1992~2004年に同大学で前立腺摘除術を受けた患者2,312例のカルテを解析。術前PSA値と術後の癌再発リスクとの相関を検討した。手術はすべて同大学泌尿器科学のPatrick C. Walsh教授が執刀した。平均 5 年間のフォローアップ期間に,211例で癌再発の徴候が認められ,術前PSA値が高い患者ほど,術後の癌再発リスクは有意に高かった。PSA値が10~19.9ng/mLの患者では,10ng/mL未満の患者と比べて術後の癌再発リスクは 3 倍以上,20ng/mL以上の患者では 5 倍以上であった。術後のPSA上昇は,PSA値が10ng/mL未満の患者でも術後の癌再発リスクと有意に相関しており,術後にPSA値が 2 ポイント上昇するごとに癌再発リスクは約 2 倍に増大した。Freedland博士は「今回の研究も含めたこれまでの研究から,PSAの 1 回の測定値は前立腺癌手術後の癌進行リスクの予測因子として非常に有用であることが明らかとなった。また,経時的なPSA上昇速度のほうが,単一の測定値よりもさらに有用であるようだ」と述べている。
前立腺癌へのアンドロゲン抑制療法有効性とリスクの慎重な評価を[2005年11月17日 (VOL.38 NO.46)]
米国立癌研究所(NCI)癌研究センター内科腫瘍学臨床研究部門のNima Sharifi博士らは,前立腺癌に対するアンドロゲン抑制療法(ADT)の恩恵とリスクについて,これまでの文献を再検討し,ADT施行が非常に適した患者と,そうでない患者がいることをJAMA(2005; 294: 238-244)に発表した。また,ADTが妥当でないにもかかわらず,施行されている患者がいる現状を指摘。ADTの有害作用の検討をさらに進めるべきであると結論している。
恩恵は進行癌と限局癌で異なる
進行前立腺癌や高リスクの限局性前立腺癌に対する姑息的治療としてのADTの有効性は確立されており,多くの患者に適用されている。しかし,QOLは改善しても,生存面での恩恵は明らかでない。また,限局癌に対する放射線療法を受けた高リスク患者では,ADTが生存期間を延長しうることが示されている。しかし,Sharifi博士は「そのほかの症例では,多くのリスクとQOLに対する有害性と照らし合わせたうえで,恩恵を慎重に検討する必要がある。しかし,現在こうした検討がきちんとなされているとは言えない」と指摘。「� ��移のない限局癌の治療後に前立腺特異抗原(PSA)値が上昇した患者には,しばしばADTが施行されるが,こうした治療戦略の恩恵は明らかではない」と述べている。ADTによる有害事象には,性欲減退,インポテンス,顔面潮紅,骨量減少症による骨折リスクの増大,代謝機能の変化(心血管疾患リスクの増大を含む),認知機能や気分の変化などが挙げられる。総じて,他の原因によるテストステロン欠乏症にしばしば似ており,顔面潮紅や性的障害など,患者のQOLに深刻な影響を及ぼすものもある。重要なのは,有害事象のなかには骨量減少症など予防できるものも存在することである。
手術か薬剤かを比較
Sharifi博士らは,薬剤もしくは手術によるアンドロゲン除去の相対的な恩恵に関しても言及している。手術は単純 で安全性も高いが,患者に大きな心理的影響を与えると強調。薬剤に関しては,ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬やGnRH拮抗薬の相対的な恩恵に言及した後で,こうした化学的な去勢では現在,目標血清テストステロン値が50ng/dL未満に設定されていることが多いが,精巣摘除術を受けた場合に達成される20ng/dL未満に変更すべきとする専門医もいることを指摘している。進行前立腺癌に対するADTの恩恵について,同博士らは,手術によるか薬剤によるかを問わず,骨痛,病理学的骨折,脊髄圧迫,尿管閉塞を減少させ,QOLを大きく改善すると結論。しかし,長期の生存予後が改善されるか否かは不明であるとしている。生化学的再発(限局癌の治療後にPSA値の連続上昇が認められるが,X線所見による転移が確認されない状態)患者� �対するADT施行については賛否両論があり,さらなる研究を要する。これに関して,同博士らは「早期ADTの施行が生存予後改善に与える影響は進行癌においても明確ではなく,ほとんどの生化学的再発患者にADTを施行すべき絶対的根拠はないと言える。しかし,早期のアジュバントADTが,局所進行癌もしくは高グレード癌患者の生存予後改善,さらに高グレード癌もしくは悪性度の高い癌の転移遅延に有効であることが示唆されており,これらのサブグループが生化学的に再発した場合には,ADTの適用は有益と考えられる」と述べている。
有害事象への対応を議論
ADTによる有害事象は重要な問題で,今回の検討でも詳細に論じられている。
顔面潮紅に関してはmegestrolによる治療が考えられ,既に 1 件のランダム化二重盲検プラセボ対照試験で同薬が有効であることが示されている。しかし,ADTとmegestrol投与を併用するとPSA値が上昇し,megestrolの中止で低下することが確認されている。ADT施行患者の顔面潮紅に対して,抗うつ薬の使用を検討した小規模パイロット研究があるが,Sharifi博士らによると,同様の目的の大規模プラセボ対照試験はないという。ADTによる骨量減少は大きな問題である。GnRH作動薬で治療中の転移のない前立腺癌患者を対象として,pamidronateの有効性を検討するランダム化試験が 1 件,マサチューセッツ総合病院(ボストン)のMatthew R. Smith博士らにより実施されており,pamidronateは骨密度(BMD)低下の予防に有効であることが確認されたとする研究結果がNew England Journal ofMedicine(2001; 345: 948-955)に発表されている。また,同様に同博士らによる転移のない前立腺癌患者を対象とした多施設二重盲検試験において,zoledronic acidの有効性が確認されたとJournal of Urology(2003; 169: 2008-2012)に発表された。さらに,同薬はモントリオール大学Centre Hospitalier(カナダ・モントリオール)のFred Saad博士らによるアンドロゲン非依存性の転移前立腺癌患者を対象としたランダム化プラセボ対照試験でも有効性が確認され,Journal of the National CancerInstitute(2002; 94: 1458-1468)に発表されている。 骨粗鬆症リスクはADT施行前に評価されるべきである。危険因子としては,骨粗鬆症の家族歴,低体重,骨折の既往,飲酒過多,喫煙,糖質コルチコイドの使用,ビタミンDの低値,関連する共存疾患が挙げられる。また,施行開始前にBMDを測定すべきである。ADT開始後は全例にカルシウムとビタミンDのサプリメントを投与し,喫煙と過度の飲酒を節制させる。Sharifi博士は「ADT施行患者へのビスホスホネートのルーチン投与は,骨粗鬆症が確認されるか,骨転移を伴うアンドロゲン非依存性の前立腺癌以外では推奨されない」と述べている。ADT施行後の勃起不全は重大なQOL上の問題である。同博士らは,陰茎プロステーシスや,陰圧式勃起補助具,陰茎海綿体へのプロスタグランジン注射などの可能性に言及し� ��いる。
評価の定まっていない項目も
ADT施行後の代謝機能の変化に関して,Sharifi博士らは,body mass index(BMI),総コレステロール,トリグリセライドの上昇,および体脂肪の増加と除脂肪体重の減少などが挙げられるとし,いくつかの研究において,HDLコレステロール値,空腹時血糖値,HbA1c値の上昇が示唆されていることを指摘。これらは比較試験に基づく知見ではないが,生理的変化の観察研究結果と一致しているという。同博士は「体脂肪とコレステロールの上昇,impaired glucose tolerance(IGT)が同時に存在すれば,いわゆるメタボリックシンドロームということになる。転移を伴う前立腺癌はADT適用の正当な理由となるが,それ以外の病態で年齢が中央値で70歳の患者群には,心血管危険因子の増大を慎重に査定すべきであると思われる。特に,生化学的再発患者の生存に対する恩恵は明らかでない」と述べている。ADTが関与する認知機能と気分の変化に関しては,研究結果は一貫性に欠け見解が一致していない。ADTの施行後に多くの男性で正球性正色素性貧血が起こっている。そのほかの重要な有害事象としては,女性化乳房,ドライアイ,体毛減少,めまいが挙げられる。現時点で評価の定まっていないものとしては,以下のものがある。(1)抗アンドロゲン療法と手術,薬物療法の併用:併用療法で死亡例を 1 例減らすのに必要な治療必要数(NNT)は20~100例と見積もられており,治療費も膨大である(2)間欠的アンドロゲン抑制療法:現在,いくつかの試験が進行中であるが,前向きランダム化試験のデータは得られていない(3)非ステロイド系薬によるアンドロゲン抑制の単剤療法:米国臨床腫瘍学会(ASCO)はADTの代替療法として検討すべきとしているが,ステロイド系の抗アンドロゲン療法は単独施行されるべきではない
前立腺癌への照射は標準線量より高線量を再発リスクをより低減[2005年11月17日 (VOL.38 NO.46) ]
ハーバード大学およびマサチューセッツ総合病院(ともにボストン)放射線腫瘍科のAnthony L. Zietman教授らは,限局性前立腺癌に対する外照射放射線療法(EBRT)では,標準線量を照射するよりも高線量を照射したほうが癌再発の傾向が低いとJAMA(2005; 294: 1233-1239)に発表した。
CTにより照射部位を正確に特定
現在,米国では前立腺癌患者の過半数が限局癌のうちに診断を受け,治療法の 1 つであるEBRTは年間 2 万6,000例以上に施行されている。しかし,標準線量のEBRTが奏効せずに,前立腺特異抗原(PSA)値が上昇し,二次治療を必要としたり,臨床的再発に至る症例は多い。限局癌は照射量を増やすことで管理しやすくなるが,腫瘍周囲の正常組織の損傷を防がなければ有害事象の発生率も増大する。1990年代にCTスキャンにより放射線照射部位をより正確に特定し,高線量を照射できる方法が数多く実用化された。こうした技術は" 3 次元原体照射療法"(3D-CRT)と総称されており,種類として陽子ビーム,conformal光子ビーム,強度変調光子ビームなどがある。Zietman教授らは今回,低リスク癌の患者を含め,こうした高線量照射により前立腺腫瘍のコントロールを改善できるか否かを検討した。1996年 1 月~99年12月に,T1b~T2b期の前立腺癌でPSA値15ng/mL未満の患者393例を,総線量70.2Gy(標準線量)もしくは79.2Gy(高線量)のEBRTのいずれかにランダム化割り付けした。PSAの中央値は6.3ng/mLで,フォローアップ期間の中央値は5.5年であった。照射法はconformal光子ビームと陽子ビームが併用された。その結果,治療 5 年後の生化学的再発(PSA値の上昇)なし患者の割合は,標準線量群が61.4%であったのに対し,高線量群では80.4%と治療非奏効リスクが49%減少した。こうした高線量照射の恩恵は,低リスクと高リスク患者のいずれの亜群でも認められた(リスク低減率はそれぞれ51%,44%)。治療群間で総生存率に有意差は認められなかった。放射線療法腫瘍学グループ(RTOG)基準のグレード 3 以上の急性尿路・直腸合併症の発生率は,標準線量群が 1 %,高線量群が 2 %といずれも低く,現在までの同グレード 3 以上の晩期尿路・直腸合併症の発生率も,標準線量群が 2 %,高線量群が 1 %と低かった。同教授は「今回のランダム化試験では,臨床的に限局性の前立腺癌患者に対するEBRTは,標準線量よりも高線量を照射するほうが,5 年後以降のPSA値上昇,局所持続性病変率は低いことがわかった」と述べている。
生存アウトカムへの恩恵は不明
ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)のTheodore L. DeWeese,Danny Y. Songの両博士は同誌の付随論評(2005; 294: 1274-1276)で,今回の試験と前立腺癌治療における放射線量について「Zietman教授らの研究は,臨床的に限局性の前立腺癌に対して,現在では高線量照射を安全に施行できることを確認した。高線量照射と癌の良好な生化学的管理との相関が認められたわけだ。しかし,こうしたPSA管理の改善が,生存期間の延長などの臨床的に重要なエンドポイントを意味するのか否かはまだ明らかではなく,今回の研究は究極の恩恵が不明瞭なままで,軽度であれ線量増加がもたらす実際的なリスクの増大を患者は受け入れるべきなのかという重要な問には答えていない」とコメントしている。またDeWeese博士らは,ほかにも未解決の問題として,79Gyを超える線量照射で恩恵はさらに高まるのか,どのような線量漸増法が最適なのか,さらに前立腺癌に対し� ��放射線療法にアンドロゲン抑制療法を追加した場合,患者によっては生存率が改善されることが最近示されたが,線量増加は放射線療法のアウトカム改善策としてそうした併用療法よりも優れるのかも今後の検討課題として挙げている。同博士らは「今回のランダム化試験データは低リスクの前立腺癌患者にも高線量を照射することを支持しており,今後の研究を進めるうえでの重要な基礎を築いたと言える」と結んでいる。今回の試験は米国立癌研究所(NCI)の助成を受けた。
早期前立腺癌に一時刺入小線源療法単独施行で他の治療に匹敵する効果[2005年11月17日 (VOL.38 NO.46)]
テキサス工科大学(テキサス州ルーバック)内科のRufus Mark臨床助教授らは「早期前立腺癌に対する高線量率の一時刺入小線源療法は,他の治療法と同等に有効であることが示唆された」と米国治療放射線・腫瘍学会(ASTRO)の第47回年次集会で報告した。