(小児の心不全については,先天性心血管異常: 心不全を参照 。)
心不全は心室機能不全症候群である。左室不全では息切れおよび疲労が生じ,右室不全では末梢および腹部の体液貯留が生じる;通常,両心室がある程度関連する。診断は臨床的に行われ,胸部X線および心エコー検査により裏づけられる。治療には,利尿薬,ACE阻害薬,β遮断薬,および基礎疾患の修正がある。
米国では約500万人が心不全(HF)に罹患しており,毎年50万人を超える新規症例が認められる。
生理
心収縮性(収縮力および収縮速度),心室機能,および心筋O2要求量は,前負荷,後負荷,基質の供給量(例,O2 ,脂肪酸,ブドウ糖),心拍数および調律,ならびに生存心筋量によって決まる。心拍出量(CO)は1回拍出量と心拍数の積に等しい;COはまた,静脈還流量,末梢血管緊張度,および神経液性因子の影響を受ける。
前負荷は,収縮期直前である弛緩相(拡張期)終期に,心臓にかかる負荷条件である。前負荷は拡張終期心筋線維伸展の程度および拡張終期容量を表し,これは心室拡張期圧および心筋壁組成の影響を受ける。典型的には,左室(LV)拡張終期圧は,特に正常値を超えていれば,前負荷の妥当な指標である。左室拡張,肥大,および心筋伸展性の変化(コンプライアンス)は前負荷に影響する。
後負荷は収縮期開始時に心筋線維収縮に抵抗する力である;これは大動脈弁開口時の室圧,容量,および壁厚により決まる。臨床的には,大動脈弁開口時または直後の全身血圧は最大収縮期壁応力を表し,後負荷にほぼ等しい。
フランク-スターリングの法則は前負荷と心機能との関係を表す。正常では収縮期収縮機能(1回拍出量またはCOによって表される)は標準的な生理範囲内の前負荷に比例することを,この法則は説明している(心不全および心筋症: フランク-スターリングの法則。図 1: を参照) 収縮性は,心臓カテーテル法を用いなければ測定困難であるが駆出率(EF)にある程度反映され,これは収縮毎に駆出される拡張終期容量のパーセンテージ(左室1回拍出量/拡張終期容量)である。
心予備能とは,情動ストレスや身体的ストレスに反応して安静時の水準を超えて心機能を上昇させる能力である;最大労作中に,身体のO2消費量は250mL/分から1500mL/分以上に増加しうる。その機序には,心拍数,収縮期容量,拡張期容量,1回拍出量,および組織O2抽出量(動脈血と混合静脈血または肺動脈血とのO2含量較差)の増加がある。 十分に鍛えられた若年成人では,心拍数は安静時の55〜70/分から最大運動時には180拍/分まで増加し,COは6L/分から25L/分以上に増加する。安静時には,動脈血は約18mL/dLのO2を含み,混合静脈血または肺動脈血は約14mL/dLのO2を含む。したがって,O2抽出量は約4.0mL/dLであるが,需要が増加すると抽出量は12〜14mL/dLまで増加しうる。これらの機序は心不全の代償にも役立つ。
病態生理
心不全では,心臓が代謝要求に適う量の血液を組織に供給できないことがあり,心臓との関連で上昇した肺または全身の静脈圧が臓器うっ血をもたらすことがある。この状態は,収縮機能,拡張機能,または一般的には両機能の異常に起因しうる。
収縮機能不全では,心室収縮不良や心室駆出不十分がまず拡張期容量および拡張期圧の上昇をもたらす。その後,EFが低下する。エネルギー利用,エネルギー供給,電気生理学的機能,および収縮要素の相互作用に様々な欠陥が生じるが,これは細胞内Ca調節やサイクリックアデノシン1リン酸(cAMP)産生の異常に伴うものである。心筋梗塞による心不全では,顕著な収縮機能不全が一般的にみられる。収縮機能不全は主に左室または右室(RV)に生じる;左室不全はしばしば右室不全につながる。
拡張機能不全では心室の充満が障害され,心室拡張終期容量の減少,拡張終期圧の増加,または両方が生じる。収縮性,ひいてはEFは正常に保たれる;充満不良の左室において,駆出が完全に近く,COが維持されれば,EFは増加することもある。左室充満の著しい低下は低COおよび全身症状をもたらす。左房圧の上昇は肺うっ血を惹起しうる。拡張機能不全は通常,心室弛緩の障害(能動的な過程),心室スティッフネスの増加,収縮性心膜炎,または房室弁狭窄から生じる。充満抵抗は加齢とともに上昇するが,これは恐らく心筋細胞の喪失および間質性コラーゲン沈着の増加を反映している;したがって,拡張機能不全は特に高齢者で一般的にみられる。肥大型心筋症,心室肥大を伴う障害(例,高血圧,重度の大動脈弁狭窄),お� ��びアミロイドの心筋浸潤では,拡張機能不全が優勢であると考えられる。もし右室圧が著明に上昇して心室中隔が左側へ移動すれば,左室の充満および機能も障害されうる。
左室不全 ではCOは減少し,肺静脈圧は上昇する。肺毛細血管圧が血漿蛋白コロイド浸透圧(約24mmHg)を超えると,体液が毛細血管から間質および肺胞へと漏出し,肺コンプライアンスが減少し,呼吸仕事量が増加する。リンパドレナージは増加するが,胸水の増加は代償されない。肺胞への著明な液貯留(肺水腫)により,換気-血流比(肺胞換気量[V]/肺血流量[Q])が著しく変化する:非酸素化肺動脈血は換気の低下した肺胞を通過し,全身動脈血の酸素化(PaO2)が低下して呼吸困難が生じる。 しかしながら,呼吸困難はV/Q異常に先立って起こることがあり,恐らくは肺静脈圧の上昇および呼吸仕事量の増加が原因であるが,その正確な機序は不明である。重度または慢性の左室不全では,胸水はまず右胸郭内に,その後両側に貯留することを特徴とし,呼吸困難をさらに悪化させる。分時換気量は増加する;そのため,PaCO2が低下し,血液pHが上昇する(呼吸性アルカローシス)。細気管支の著明な間質性浮腫は換気を妨げ,PaCO2を上昇させることがある(呼吸不全切迫の徴候)。
右室不全 では全身静脈圧が上昇し,主に荷重のかかる組織(歩行可能な患者の足や足首)や腹腔内臓器に体液が滲出して浮腫が起こる。肝臓が最も影響を受けるが,胃や腸もうっ血する;腹膜腔の液貯留(腹水)が起こることがある。右室不全は一般に,中等度の肝機能不全を引き起こし,通常,抱合型および非抱合型ビリルビンの軽度上昇,プロトロンビン時間(PT)の軽度延長,および肝酵素(例,アルカリホスファターゼ,AST,ALT)の軽度上昇を伴う。肝障害によりアルドステロン分解能が低下し,体液貯留をさらに亢進させる。臓器における慢性静脈うっ血は,食欲不振,吸収不良および蛋白漏出性腸症(下痢および著明な低アルブミン血症を特徴とする),消化管の慢性失血,そしてまれに腸管の虚血性梗塞を引き起こす可能性がある。
心臓の反応: 心室機能が障害されると,COを維持するためにより大きな前負荷が必要となる。結果として,左室は徐々にリモデリングされる:左室は卵形から球形となり,拡張し,肥大する。初期には代償性であるが,これらの変化は最終的に拡張期スティッフネスおよび壁張力を増強させ,これにより特に身体的ストレスがかかったときに心機能が低下する。壁応力の上昇により,O2要求量が増大し,心筋細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)が加速する。
血行動態の反応: COが低下した状況では,組織へのO2運搬は,O2抽出量を増加させることや,ときに酸化ヘモグロビン解離曲線を右側へ移行させてO2放出を促進することにより維持される(肺機能検査: 酸化ヘモグロビン解離曲線。を参照 図 4: )。
全身血圧の低下を伴うCOの減少は動脈の圧反射を活性化させ,これにより交感神経系の緊張が亢進し副交感神経系の興奮が抑制される。結果として,心拍数および心筋収縮力は増加し,特定の血管床の細動脈は収縮して,静脈収縮が起こり,Naおよび水分が保持される;心不全の初期には,このような変化が心室機能低下を代償し,血行動態の恒常性を維持するのに役立つ。しかしながら,これらの代償性変化は,心仕事量,前負荷,および後負荷の増大,冠灌流および腎灌流の減少,体液貯留によるうっ血,K排泄亢進,心筋壊死,ならびに不整脈をもたらす。
腎臓の反応: 心機能が悪化すると,腎血流および糸球体濾過率(GFR)は低下し,腎臓内の血流は再分布される。濾過率およびNa濾過は低下するが,尿細管再吸収が増大してNaおよび水分は保持される。血流は労作時にさらに再分布されて腎臓に送られなくなるが,安静時には改善して恐らくは夜間頻尿の原因となる。
腎灌流の減少(および恐らく心室機能低下に続く収縮期の動脈伸展の減弱も)はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を活性化させ(動脈高血圧: レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系も参照 ),Naおよび水分の保持が増加し,腎臓や末梢の血管緊張が亢進する。これらの作用は心不全に伴う強度の交感神経賦活により増強される。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン-バソプレシン(抗利尿ホルモン[ADH])系は,悪影響を及ぼしうる一連の反応をもたらす。アンジオテンシンⅡは,腎輸出血管を含む血管の収縮を引き起こしアルドステロン産生を増強することで心不全を悪化させ,これは遠位ネフロンにおけるNa再吸収を亢進させるだけでなく心筋および血管のコラーゲン沈着および線維化も惹起する。アンジオテンシンⅡはノルエピネフリン放出を促進し,ADH放出を刺激して,アポトーシスを誘発する。アンジオテンシンⅡは血管および心筋の肥大に関与することがあり,そのため心臓および末梢血管構造のリモデリングが生じ,場合によっては心不全が悪化する。アルドステロンは,心臓および血管構造においてアンジオテンシンⅡに非依存的に合成され(� �らく,コルチコトルピン,一酸化窒素,フリーラジカル,および他の刺激が介在する),これらの臓器に悪影響を及ぼすことがある。
神経体液性反応: ストレス条件下では,神経体液性反応は心機能の向上および血圧や臓器灌流の維持に役立つが,これらの反応の慢性的な活性化は,心筋刺激ホルモンと血管収縮ホルモン,および心筋弛緩ホルモンと血管拡張ホルモンとの正常なバランスに悪影響を及ぼす。
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